公益社団法人 大阪府鍼灸師会

研修会&講座

令和元年9月8日第3回学術研修会 二講目報告「実践的お腹の診方と消化器疾患の治療」[2019/11/01]

 
実践的お腹の診方と消化器疾患の治療
大樹鍼灸院 院長 漢方鍼灸臨床研究会(KACS)総務部長 松田大樹先生
 
古来より、西洋・東洋どちらにおいてもお腹を診るということは重要視されてきた。難経十六難には腹診の原型があり、腹部の反応によって五臓の病を知ると記されている。江戸時代の湯液家・吉益東洞、安土桃山時代の鍼医・御薗意斎によっても腹診の重要性が伝えられている。古代ギリシャの医聖・ヒポクラテスは、「すべての病気は、腸に始まる」と述べており、現代医学においても「腸は免疫細胞のゆりかご」、「腸は第2の脳」というように腸の重要性は近年ますます注目されている。つまり「快食・快便・快眠」は健康の3要素の元であり、これらを担っている腸を健康にしておくことは生活習慣病が増加している現代人にとって課題であると言える。
東洋医学的な胃腸の診方においては、①胃の気の生成(=後天の原気: 陽気・活動エネルギー)②水穀(飲食物)の受納、腐熟を主る(→消化、吸収)③排泄の働きを担っている。その為、胃腸機能の失調(冷・寒)により①胃の気の低下→元気がない・やる気がない・からだがだるい②消化、吸収力の低下→食欲不振・胃もたれ・胸やけ③排泄調整機能の低下→下痢・便秘を引き起こす。また、胃腸機能の亢進(虚熱・実熱)により、胃腸の熱→ 食欲亢進・胃腸炎・下痢・便秘を呈する。
臨床におけるお腹の診方のポイントにおいて、まず一番大切なことは「健康なお腹を知る」ことであり、健康な乳幼児のおなか又はふかしたてのまんじゅうをイメージするとよい。つまり、柔らかくて皮膚がなめらかで温かいお腹が理想である。逆に、不健康なお腹とは、硬い・突っ張っている・緊張・圧痛・皮膚があらい・ザラザラ・発疹・冷たい・炎症などの反応があるもので、これらの反応を見つける触診力が必要である。経絡治療においては、腹診にて虚実を弁えることで証決定のための重要な診断材料になる。さらに、その他①胸脇苦満→肝実②脇下硬→肝実、?血③心下痞(硬)→脾虚④小腹急結・小腹不仁→腎虚⑤?血(臍傍?血・下腹部?血)→肝実 などの反応も重要である。
西洋医学的な診方としては、腹部の筋肉及び内臓も触れやすいポイント(固定されている所)を目安に、経穴の下に何があるのかを把握しておくことも大切である。そして腹部の表層から深部までを触診して病的な反応を捉え、総合的に診てどの臓器に不調があるのかを判断していく。
胃腸症状に使う代表的な経穴においては、脾経、胃経、背部膀胱経の他にも奇穴(華佗夾脊穴、痞根、徹腹)も臨床的に有効である。また、腹部の募穴、任脈、腎経、肝経などの経穴も適宜使用する。経穴の選択の際には、お腹と同様、必ず反応(圧痛・撮診異常・緊張・硬さ・熱感・冷感など)のあるものを選択しないと効果は期待できない。また、治療後にお腹や経穴及び脈などに改善の変化を確認することで、患者さんに問わずとも施術者主導の判定ができるというメリットがある。
治療上、注意を要する症状としては、急性腹症や食中毒、腸の狭窄や閉塞、消化器系以外の原因による腹痛の兆しを見逃さないこと。また冷や汗をかくような痛みや夜間痛、触診にて硬い腫瘤が触れるもの、何回か治療をしても改善がみられないものなどは速やかに内科(胃腸科)の受診をすすめることも重要である。
最後に治療法として、鍼・灸・指圧等々どの手技においても、ツボの反応や患者さんの体質に応じてドーゼを考慮した治療ができることが大切である。刺鍼のポイントとしては『R(リラックス)・I(イメージ)・C(コンセントレーション→鍼先に意識を集中)』を紹介していただき、実技でも披露していただいた。
今回は東洋・西洋にこだわらず、より臨床的な腹部の診方と治療法においてご紹介いただいた。経絡治療においては本治法で手足の経穴を補瀉すると基本的には腹部も整うが、臨床的には慢性疾患や内臓疾患においては改善までに非常に時間を要する場合も多い。必要性に応じて腹部や背部の刺鍼も組み合わせることで、より速く患者さんを治癒に導ける可能性があるならば、非常に意義深いと思われる。また鍼灸師は腹診をする際の心構えとして、今一度「お腹を見せる」という患者さんの立場に立って、患者さんに不快を与えない触診の仕方や安全な治療法を確立していく必要がある。常に患者さんの為にできる最良の治療を追い求めることと、一方で初心に帰って基本的な部分を怠らないことの重要性を再認識させていただいた。

研修委員 上田里実

令和元年9月8日 第3回学術講習会報告「消化器疾患―IBD・IBDを中心に」[2019/11/01]

 
令和元年9月8日 第3回学術講習会 1講目
『消化器疾患―IBD・IBDを中心に』 むらのクリニック院長 村野 実之
 
消化器疾患は、内視鏡による診療が有効であり、内視鏡受診者の年代は、30代から50代が中心で、30代が16%、40代が35%、50代が28%で合計79%となっている。男女別では、男性が49,7%、女性が45,7%とほぼ同じ割合で大差が見られない。
大腸ガンについては、男性が3位、女性が2位、全体では1位で2位胃ガン、3位肺ガンより多くなっている。大腸ガンを早期発見、早期治療することで、阪神の原口選手は発見から約4か月で実戦復帰している。ポリープ(腺腫)の大きさとガン化率を見ると、ポリープが大きくなるとガン化率も高くなっている。そのためポリープが小さい間に処置するのが良い。処置法としては、内視鏡的粘膜切除術が有効である。
大腸内視鏡の対象は、検診で便潜血陽性、大腸ポリープの既往歴、親族に大腸ガンの方がいる。症状で血便や粘液が出る、下痢や便秘などの便通異常が出現する、などに当てはまる場合は、早期発見・早期治療のために、大腸内視鏡など精密検査が必要である。
過敏性腸症候群(IBS)については、生活習慣、環境因子、消化器機能、食事栄養などが要因で、日本人の食生活の変化などが影響していると考えられる。IBSの有病率と病型は、日本の有病率は13.1%で、そのうち下痢型29%、便秘型24%、混合型47%で、男性は下痢型、女性は便秘型が多い。年齢別では若年層(20~30才代)に多く、加齢とともに減少する。IBSと併存が多い主な疾患には精神科疾患や消化管疾患などの身体的疾患がある。精神科疾患には、パニック障害・身体化障害・うつ病など、消化管疾患には、GERD、FDなどがある。IBSに対する治療は、下痢型にはイリボーや半夏瀉心湯が、便秘型には酸化Mgやリナクロチドが有用である。
炎症性腸疾患(IBD)の患者数としては近年、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)が急増している。消化器疾患の中でも、潰瘍性大腸炎(UC)の増加が他の疾患に比べて多くなっている。潰瘍性大腸炎(UC)については、1970年頃からのファストフードの出現など、食の欧米化により急増したと考えられる。病因としては、遺伝的素因に環境因子(食餌・感染・化学薬品等)が加わり免疫異常が起こり、発症、再燃、増悪するなどがある。罹患範囲(初診時)としては、直腸炎型16.8%、左側大腸炎型41.4%、全大腸炎型33.5%となっている。潰瘍性大腸炎(UC)の臨床経過には、再燃緩解型、慢性持続型、急性激症型、初回発作型がある。
最良の炎症性腸疾患(IBD)の治療とは、1確実な診断、2適切な治療、3適確な見極めが大切である。また患者に前向きに付き合っていくこと、患者の生活スタイルに合わせた治療法を選択すること、慢性疾患のため継続治療の必要性など、患者の理解を得ることも大切である。
消化器疾患を主訴として、鍼灸院に来院する患者さんは少ないと思いますが、基礎知識として大変有意義な講演であった。
(研修委員 中村 隆) 
療養費適正強化講習会[2019/09/02]


療養費適正強化講習会報告
7月28日13時~16:30 森之宮医療学園アネックス校舎4階ホールにて(一社)鍼灸保険協会大阪と共催で療養費適正強化講習会が行われました。
猛暑の中、受講生は117名と大阪での受領委任制度への移行を控えて多くの参加者がありました。講師は(一社)鍼灸保険協会大阪 得本誠事務局長、(公社)日本鍼灸師会健保委員会 要信義委員長、及び本会の森下輝弘 民生労災委員長で、療養費取扱い者が今知っておくべき点についてお話が有りました。
 また、それに先立ち午前には鍼灸保険協会大阪と山正の共催で、唐沢具江先生を講師に迎えて「経営改善講座 顔への施灸活用セミナー 現代人のためのメンタルケアと美容」が行われました。参加者は定員の20名で、じっくり指導を受けることができておりました。

編集・情報化委員長 喜多伸治
 


令和元年度 第2回学術講習会報告「皮膚の再生に特化した美容鍼 ~ICCO式美顔はり~」[2019/09/02]
②「皮膚の再生に特化した美容鍼~ICCO式美顔はり~」

講師(公社)群馬県鍼灸師会 会長 龍華鍼灸院 院長 田中 一行 先生

約3年間美容鍼灸の講演をしていて思うことは、美容鍼灸とか治療とかどちらがいいと言う話ではなく、美容鍼灸の中でどれが一番とかでもなく、一つの方法論として紹介された。鍼灸師として美容鍼灸が普及することを目的とし、ブームを作るのではなく文化を作り、正直な知識や技術を提供し、鍼灸師がすべてを抱え込むのではなく、患者様に合う分野で得意とされる先生に紹介し専門職の輪を広げることが患者さんにとって早く効果がだせ、早く治る事が出来る。できることできないところを出していく事も大切である。鍼灸を多くの人に広めていくには、痛そう怖そうという負のイメージがあり、鍼灸未体験者に対しては、鍼灸を知って興味を持って欲しい。鍼灸が嫌いな人でも興味がまさると「恐怖<興味」で「痛くても怖くても受けてみたい」という気持ちにさせる。魅力を感じ必要とされる鍼灸を目指すには、鍼灸に興味がなくても美容には興味がある。きれいになりたい女性、男性も非常に多い。そこでどれだけきれいになれるかアピールして結果を出していって「鍼灸でもいい」ではなく「鍼灸じゃないと!」いけないという結果を出していく。

美容鍼灸でよく目にするキーワードは、リフトアップ、小顔効果、むくみの解消。他にきめ、保湿効果、弾力性の向上、シワ、タルミの解消、シミ、そばかすの軽減、消失。リフトアップ、小顔効果、むくみの解消は鍼灸でなくてもできる。顔に何が起きているかと言うと、表情筋を刺鍼・刺激することで筋肉が引き締まり血流の流れが良くなり、リフトアップ、小顔効果、むくみの解消が起こる。逆転させてみると、フェイスマッサージや美顔ローラーなどでも同じ効果を出せる物が多くあるので鍼灸でなくてもいいことになる。東洋医学からあえて離すのは、気、経絡、経穴は一般の人には曖昧な概念や評価でしかない。特に「美容」の場合は、納得を評価として目で見たことを実感してもらう。美容鍼灸に本当に必要なものは、押しつけではなく、期待や要望に真摯に応え、東洋医学的な調和も大事だが、西洋的な改善し、はっきりした効果を「鍼灸にしかできない」ものを提供する。

ICCO式美顔はりが生まれた理由は、治療効果に根拠、理論、意味、再現性を求めて、まわりの人が見てきれいになったと言われる治療を目指している。

美顔はり=皮膚美容+散鍼+「α」

・美容のために何をするか、これは山ほどある。

・組み合わせで方法や手法はいくらでもある

・なんでその必然の組み合わせなのか

・それが、「鍼じゃなきゃいけない」の根拠になる。

ICCOとは、

I・・・Injure「傷つける」

C・・・Cure「治す」

C・・・Collagen「コラーゲン」

O・・・Obtain「獲得する」

そうして生まれた「ICCO式美顔はり」とは
美容整形外科で使用される美容治療器具でダーマローラー。

ダーマローラーのメリットは、美容効果が高い。効果の再現性が高い。デメリットは、出血、かさぶた、赤み、腫れ、炎症など。刺激痛があるので麻酔が必要。皮膚の回復まで1~2ヶ月かかる。鍼灸師がダーマローラー的な鍼ができないのかと考え、細い鍼を用いることで皮膚上の出血がない。浅く刺すことで内出血を避け組織の再生修復が早い。清潔な鍼なので免疫反応や修復作業は正常に起こる。表皮の0.2㎜表皮の基底層に届くように刺入する。創傷治癒機転により、コラーゲンの増量、エラスチン量の増加、肌の水分含量物質・ヒアルロン酸・セラミドの増加、基底層の再生が起こる。24時間~48時間前後される。美顔はりをした翌日にさらに、リフトアップ、小顔効果、むくみの解消が起こる事が出来る。浅いしわは、瞬時~早朝に改善される。深いしわは、真皮層への刺鍼で再生される。シミやくすみに対して、表皮内にあるメラニンが排出されやすくなる。潜在しているメラニンが浮き上がることもある。シミと肝斑の鑑別は、皮膚科、美容外科でも鑑別不能。肝斑は、強刺激を加えると周囲に色素を放出する。浅い散鍼は強刺激にならないので肝斑があっても適応だが改善はしない。

ICCO式美顔はりの手技

セイリンJSP,No.03*15mmを使用。顔全体を確認できる鏡。顔全体に浅く細かい散鍼。深さは、0.2~0.3mm程度。刺鍼は、一定のリズムで行う。手技のコツは、0.2mmの刺入深度を指先の感覚で覚える。浅く刺して、引き抜いて、動かして浅く刺す。鍼管は常に皮膚に対して垂直をキープする。治療の流れは、問診→消毒→鏡で顔の現状の確認。顔反面を治療→消毒→鏡で左右を比較。反対面を治療→消毒→両側の変化を確認。翌日に肌の変化を確認してもらう。消毒は、衛生面を考慮しアルコール綿花で治療部位を消毒する。患者さんの希望で、ノンアルコールの清浄綿を使用することもある。フェイスライン、ほうれい線、顔の幅、口角、鼻筋、目頭・目尻の高さ、目の大きさと位置、歪み等がある場合もチェックしておく。治療は、半面の顔に鍼を刺す。ほうれい線から頬、目の下、フェイスライン、目の外側からこめかみ。眉間、眉の上から額。片面を治療した直後の顔がどれだけ変化したのかを確認する。治療前に確認した部位は鏡で左右差を比較する。フェイスラインや頬は触れてもらい違いを確認。次に、反対側を治療しながら創傷治癒機転の話をして、効果は翌朝訪れる事を説明しながら、今後の自身の肌への興味を持たせる。
(研修委員 松岡 輝人)
令和元年度 第2回学術講習会報告「美容業界が経験した経営の失敗例と鍼灸師の先生にしてもらいたいスキンケアアドバイス」[2019/09/02]

令和元年7月14日(日)
第2回学術講習会 森ノ宮医療学園専門学校アネックス校舎

①美容業界が経験した経営の失敗例と鍼灸師の先生にしてもらいたいスキンケアアドバイス。

鍼灸Meridian烏丸 副院長 郡 佳奈 先生

 
化粧品会社専属エステティシャン・美容学校の専任教員・美容コンサルタント・鍼灸院副院長を経た立場から、華やかな美容業界が陥った経営の失敗例とそこから学んだ教訓をご紹介頂き、「美容」ではなく、「美養」意識を確立させた一歩先のスキンケアのアドバイス方法を鍼灸師の立場だからこそできることをお伝え頂きました。
 現在の一般的なエステティックのイメージとして、【脱毛、痩身、美白、リラクゼーションなど】が挙げられ、様々な美容業(美容皮膚科・美容整形・エステティック・化粧品販売)があります。エステティックの残念なイメージとしては、派手?過剰なセールスがあるのではないか?Before→Afterが怪しい?などのマイナスイメージがありますが、エステティック業の定義(一般社団法人日本エステティック振興協議会)では、「一人ひとりの異なる肌、身体、心の特徴や状態を踏まえながら、手技、化粧品、栄養補助食品および、機器、用具等を用いて、人の心に満足と心地よさと安らぎを与えるとともに肌や身体を健康的で美しい状態に保持、保護するという行為をいう」このような考え方の基に成り立っていることと、鍼灸の理念とも共通することと、他の資格者(医師・美容師・理容師・医業類似行為)の行為を禁止していることを強く述べられていました。
 また、エステティックの種類には、ソワンエステティック・メディカルエステティック(ドクターと一緒に結果重視)・ソシオエステティック(難病・終末期の方にタッチセラピー)があり、このソシオエステティックと鍼灸の概念が共通することや、海外(フランス・イギリス・アメリカ)では医療における美容ケアとして取り入れられていて、医療と美容・看護と美容という観点から、患者さんの心の支えや残りの人生をよりよく生きていくケアになっています。日本では、『コスメティックインフォメーション』として国立がん研究センター中央病院(2005年~)や『メディカルメイク外来』和歌山県立医科大学付属病院(2010年~)、『メイクアップ教室』京都大学病院、近畿大学病院など多大学に取り入れられています。
 その一方で、過去の美容業界が陥った経営の失敗(高額な回数券の販売・化粧品・機器の販売等によるトラブル)から、行政(厚生労働省・経済産業省・消費者庁)の指導のもと特定商取引法や景法表示法(不当表示・誇大表示・違法広告)などを詳細に説明され、サロンのイメージダウンから業界イメージダウンに繋がる警告とこれから経営の中に取り組む場合のアドバイスとしてエステティックの資格や成功する美容サロンの条件、そして美容に携わる人材の条件を教えて頂きました。
 最後に皮膚科学とスキンケアの基礎知識の説明と化粧品メーカーが出しているトリートメントによる生理的効果やストレスと肌トラブルなどエビデンスを指し示されました。
 化粧品学や肌トラブルに合った化粧品成分、医薬部外品の選び方や使い方そして使う時の気持ちが大切であること、エステティックをする上での禁忌事項・注意事項を説明されました。
鍼灸業界の進む美容鍼灸の方向性として「美容医療には、絶対に勝てない」(シミをとる・シワをとる・にきびを消すなどBefore→Afterがはっきりしているもの)と強調され、エステティック業界が辿った失敗を踏まえ、鍼灸業界では、ソシオエステティックとして病気をかかえた方や残りわずかな人生の方のタッチセラピー的な美容鍼灸を美容分野で確立していけば、鍼灸師しかできない美容鍼灸ができますし、気持ちよさやサービスという面から鍼灸師がエステティシャンを立たせて、一人の患者様に提供することも良いのではないか?というご提案でした。
 ますます発展している美容医療の中で、「絶対に勝てない」という言葉が印象に残りましたが、鍼灸業界として、鍼灸師しかできない美容鍼灸の在り方を様々な経歴と経験とエステティック業界での失敗を教訓に指し示して頂き、今後の鍼灸業界での美容鍼灸の存在意義を模索していく機会になったのではないかと思いました。

研修委員 思川裕子


令和元年度 第1回学術講習会報告-2「作業療法の視点で認知症予防・転倒予防を捉える」[2019/06/28]

令和元年度 第1回学術講習会2講目報告
(令和元年5月19日 会場:明治東洋医学院専門学校)
「作業療法の視点で認知症予防・転倒予防を捉える」             
  講師:森ノ宮医療大学 作業療法学科 教授 横井 賀津志 先生             
 
 地域包括ケアの中における多職種連携・協働の重要性は皆さんも周知の事実ですが、お互いの専門職をどれだけ理解しているのか?という問題は非常に大きいのではないだろうか。そこで今回は、認知症予防において重要な役割を担う作業療法士という専門職を理解し、作業療法士が認知症をどう捉え、治療しているかを講演して頂いた。
1.作業療法士って?
まず作業療法士(OT:occupational therapist)とは,心身に障害のある方に対し,その人自身の存在を取り戻すため,治療に作業(occupation)を用いる医療・保健・福祉の専門職です。作業とは,自分にとって切り離すことができなく、その活動が出来なくなったら自分を見失ってしまうと感じ,自分を醸し出す活動のことです。
作業の特徴としては、①時間(いつ)②場所(どこで)③人(だれと)④手順(どのように)と4つの概念が入っている。もちろん作業療法によって手足を動かせるようにしたり、麻痺を回復させることは非常に大事なことではあるが、その人自身を取り戻すことが本来の目的である。
2.認知症に対するアプローチ
 作業療法士が認知症の方へアプローチする場合、中核症状とBPSD(周辺症状)とでは異なる。例えば、中核症状に対してはRO法(Reality Orientation)を用いる。RO法とは、「現実を正しく把握してもらう」ための介入方法で、介護者や作業療法士などの援助者が日常生活のあらゆる機会を利用して、認知症の方が自分のおかれている状況を正しく認識できるように援助するものである。日々の関わりの中で「今日は晴れていますね」「桜の季節ですね」「5月は〇〇祭が始まりますね」など、対象の方の生活背景に合った現実的な会話を取り入れる。認知症の方の現実感覚を取り戻し、見当識障害の改善が期待される。また研究では、軽度AD(アルツハイマー型認知症)患者は、全体の記憶総量は健常人に比べ低下しているものの、情動喚起による記憶の増強効果は健常人と同等であったとの結果が出ている。つまり、いつ・どこで・だれと・どのようには記憶からこぼれてしまうが、その場の雰囲気や味わった感情(うれしい・楽しい・悲しい・寂しいetc)などの形容詞は残るというのである。
また、認知症の症状が出る前の超早期(プレクリニカル)や軽度認知障害(MCI)の状態での様々な認知症予防を実践することは修正可能な状態でもあるという。例えば、歩くことに関しても1日5000歩・早歩きを7.5分というラインで認知症の有病率に差が出るというデータもある。さらに介護が必要となる原因疾患の第4位(女性では第2位)である転倒を予防することが重要である。講演の最後に横井先生らが考案した棒体操が紹介された。この棒体操は、身近にある新聞紙を丸めた簡単な棒を使用し、投げる・受け取る・回転させる・落下させる動作を多用し、バランスを崩した状態を幾度となく体に体験させておくというものである。ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
 
3.まとめ
 認知症をひとつとっても専門職の違いで、異なった角度から捉えることができ、またそれを学んだ講習会であった。多職種連携が必要な医療現場においてお互いの専門職を理解し合うことの重要性を認識できたのではないでしょうか。
(研修委員長 荒木 善行)
令和元年度 第1回学術講習会報告「自分が望む最期の迎え方を伝えてみませんか」[2019/06/28]

令和元年5月19日(日)

令和元年度 第1回学術講習会
(公社)大阪府鍼灸師会・全日本鍼灸学会共催 会場:明治東洋医学院専門学校
 
講演①:「自分が望む最期の迎え方を伝えてみませんか」
    講師:市立岸和田市民病院緩和ケア内科  川島 正裕先生
 
 
自分が望む最期? ピンピンころり。健康寿命を延ばし今まさに人生百年時代へ突入せんとする我々の多くが熱望して止まないことです。しかし皆が皆そう成れるわけでわけではありません。
(ここで、健康寿命とは、医療や介護に依存しないで自分の心身で生命維持し、自律した生活ができる生存期間の平均です。)
加齢と共に運動機能や認知機能が低下し、複数の慢性疾患の併存する状態になった場合がそれです。そして天寿を全うして旅立つ。
その旅立ちの前に表題の、「自分が望む最期の迎え方」についてです。
此の世に生を受けた以上必ず死を迎えるのですが、
①    事故、災害また脳、心疾患等による突然死。
②    癌、心・肺疾患末期
③     認知症、老衰
の順で予後が変わってきます。いずれにしても普段自分の意思表示が明確にできる状態の時から、信頼の置ける家族、兄弟、友人知人に人生の最終段階に於ける医療行為についてまで話しておく必要があります。
延命治療、心肺蘇生処置の有無。意思表示出来なくなったときの代理決定者は誰になってもらうか、と言うところまで。
以上の様なことをタブー視せず、
患者・家族・医療従事者の話し合いを通じて、患者の価値観を明らかにし、これからの治療・ケアの目標や選考を明確にするプロセスのことを、
ACP  アドバンス・ケア・プランニングと言うそうです。 
ではどの様な時、人にACPを実施するかと言うと、『この人が1年以内に亡くなったら』
驚きますか? もし驚かないならACPを行うと考えてよいそうです。
只、本人の意思を尊重し無理強いはしない。又、あまりにも時期尚早なACPの実施は、時間の経過と共に思考の変化を来す為、再度意思確認の必要があります。
 
自分の望む最期の迎え方とは、旅立つ本人、見送る家族、サポートする医療者や介護関係者
皆が納得出来る最期なのかな?

研修委員  中川 欣久

平成30年度 第6回学術講習会報告②「NBMと鍼灸臨床」[2019/04/24]
■日時:平成31年3月10日

【講演2】「NBMと鍼灸臨床」
 講師 森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科 教授
    森ノ宮医療大学鍼灸情報センター 教授
    山下 仁 先生

 Narrative(NBMナラティブ)とは物語の意であり,個々の患者が語る物語から病の背景を理解し,抱えている問題に対して全人格的なアプローチを試みようという臨床手法である。NBMとは、(以下、斎藤清二によるNBMの解説を要約・改変)①患者の語る「病の体験の物語」をまるごと傾聴する。②複数の異なる物語の共存や併存を許容する。③治療者と患者との対話から新しい物語が創造される。

「どんな非科学的な話であっても当事者には特別な意味を持っている」(板垣忠生国立がんセンター名誉総長)

 EBM(Evidence Based Medicine)偏重時代の中で,NBMはEBMを補完するためのものであり,互いに対立する概念ではなく、④臨床の状況に応じて、EBMとNBMの両者の概念と手法を併用することによって、より質の高い医療レベルに到達することができる。
 まずEBMを理解しないと、このNBMの理解もできないため、EBMについて詳細な解説を頂いた。EBMは、エビデンス・患者の価値観・臨床的状況と環境・治療者の専門的技能を表し、この介入(治療法)は有効か?をLevel1~5で示し、RCT(ランダム化比較試験)においてデータの統合やエビデンスの質の評価を受け、エビデンス総体【システマティックレビュー(メタアナリシス)】が成り、推奨度の決定により、エビデンスにもとづく診療ガイドラインが作成される。

 手指消毒を例にガイドラインでは、速乾性手指消毒薬によるラビング法による手洗い導入後の病棟における院内感染の減少率を挙げた。エビデンスだけに基づけば良いかもしれないが、患者の治療やケアにおいてはそうはいかないことを取り上げ、病の物語に寄り添わない医療の悲しさを体験した月刊ナラティブメディカの編集をしていた中野良一氏の「悲しい乳房の物語」を紹介された。

 NBMの実践は、患者と医療者の良質な対話であると。対話の話題選択の主導権は患者にあり、患者の病の物語を医療者は患者と共有することである。山下先生は、屁理屈が通らなくても、非科学的でも取り入れようと。
臨床の中で物語ができあがると言われていた。

 事例を2例挙げられ、ディペックス・ジャパンの「健康と病の語り」データベースを画像と音声による例を挙げた解説だった。

 山下先生は光藤英彦先生の元で生活史的認識法(時系列分析)を学ばれながら、臨床に携わり、目の前に時系列分析表を置き、患者さんと埋めていく共同作業が、普段なら訊ねられない重い話も容易に引き出せ、様々な場面を疑似体験し共有する感覚を体験された。これは、当時(1980年代)名前もなかったNBMのひとつの実践例であったと。また、痼疾に対する経穴を探り、治療者の指がターゲットを絞り込むと患者が「あぁ、そこです」という言葉を発した時は、患者と治療者と補助者が互いに納得した気持ちが共有され、共同作業をしている感覚であった。このように鍼灸臨床の中で「こそ」立ち現れる/構成される物語がある。

 結論として、NBMとEBMは相補的関係である。臨床においてエビデンスは多くの場合、典型的な例について断片的に提示されているに過ぎない。エビデンスだけで臨床のすべてのプロセスにおいて決断・実行することは不可能で、断片的に散らばっているエビデンスを個別の患者のナラティブでつなげていく作業が現実の臨床には必要となる。

 NBMはEBMほど明確な定義やプロセスが確立していない。しかし、必要性に異論もない。再現性を求めるエビデンスは無理なので、ナラティブとして書き留めていくことである。
 
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 正に、日々行っている鍼灸臨床では、多くの先生方がナラティブを体験しているでしょうし、また、ナラティブとして今後の臨床記録に書き留めることの重要性を再確認できた研修でした。

研修委員  思川裕子


平成30年度 第6回学術講習会報告①「鍼灸師の気韻生動」- 鍼灸師は芸術家[2019/04/24]
■日時:平成31年3月10日

【講演1】「鍼灸師の気韻生動」-鍼灸師は芸術家
 講師 鍼灸 Meridian烏丸 院長 中根 一 先生

 何かの正解があるわけでなく、みんなで考えてみんなで未来に向かって一歩を踏み出そうというアクションです。


 受講者にアンケートが配布され、どういう方なのか、何を望んでいるのか、何に困っているかわからないまま講義を一方的に話してしまうと有意義だったのかわからない。そこで鍼灸臨床の上では当たり前の話で、自分が思っている治療とクライアントが望んでいる治療が違うケースがある。受講者は何を望んでいるのかを伺うためにアンケートを実施された。その中から共有できる話、あるいは個人的な印象的な話を皆で語りながら講義を進行された。

 鍼灸院に来る患者さんは、鍼と灸によって問題解決するために来院されるだけでなく、先生に話を聞いて欲しいために来られていることもある。患者という字は、心が串刺しされている人、病は疾患や疾病を持っている人を言う。訴えのある人は、自分の不平や不満や苦しみを言葉にして相手に伝え、それを理解して解決してもらうことを望んでいる。鍼灸臨床する上で、本当に鍼で問題解決することが必要なのか、鍼灸師である私達が問題解決するための糸口なのか分からない。臨床上の経験で、全員が患者と言っていいか分からないため、まずはクライアント(有訴者)と言うようにしている。講習会などで患者さんがと表現したときにケースが違うはずで、僕たちと鍼灸と言ったときに、鍼灸が手技なのか、研究対象なのか、生きるための糧なのか、生きがいなのか、社会貢献のひとつなのかわからない実感であった。

 
アンケートの質問事項

 ■鍼灸師になる前は、何をしていましたか?
 ■自身の鍼灸院の治療理念の特徴を一言で表すとどうでしょう。
 ■鍼灸師を志すきっかけ
 ■ご自身の鍼灸院の特徴や理念
 ■どのような鍼灸師像を、目標としていますか?
 ■今抱えている不安は、どんなことですか?

 

 気韻生動とは、水墨画の描き方で中国南斉の画家、謝赫(しゃかく)が6つ示している。謝赫がいうには、気韻生動ができる人は突然基礎がなくても現れる。これは技能にあたる。文章化や共有することができない。技術は共有できる。これは学校で学ぶことや講習会で学ぶことができ文章化や共有できる。藝をみがいて気韻生動、自分しかできない何かを達成するためにはどうしたらいいかというと、アニメの亀仙人が、「よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べ、よく寝る。」藝は、よく動き、よく学べば備わると言う。これは師匠に、よく遊びなさいと言われた。それは、見学や勉強のために同じ場所に留まらずにいつもと違う所に行く。例えば旅行する。遊学するという意味でした。技能を育てる上で大切なことは「遊ぶ」ことである。

 
「画の六法(りくほう)」を鍼灸と重ね解釈すると以下のようになる。

 気韻生動:迫真的な気品を感じ取ることが可能であること。脈が整い、笑顔がこぼれる鍼灸。
 骨法用筆:明確な描線で対象を的確にあらわすこと。鍼と灸の技術研鑽すること。
 応物象形:対象の形体を的確にあらわすこと。治療方針(証)をたてること。
 随類賦彩:対象の色彩を的確にあらわすこと。寒熱・補瀉を整えること。
 経営位置:画面の構成。陰陽五行・気血津液を整えること。
 伝移模写:古画を模写すること。伝統的な鍼灸を学ぶこと。

 
 昭和時代は、物事を医療も含めて、標準化して提供する側の手間が省け利益があるような品質化をした。そもそも鍼灸は、標準化が難しくエビデンスもとても難しい。「科学的根拠と対話」で科学的根拠を使って、対話してプレゼンテーションして、結果が出ているのでこの方法でやりましょうというのが私達の仕事です。かえると「因果関係と相関関係」と言える。因果関係は例えば、熱湯をかけるとやけどする。直接な原因が直接な結果を導くのが因果関係です。相関関係は例えば、猫が顔を洗えば雨が降る。他にも要素がたくさん関わっているのに、そういう傾向にあるというのが相関関係です。因果関係は相関関係の中にある。鍼灸師あるいは臨床をしている人は、【相関関係】肝虚症は、長男・長女に多く見られる傾向にある。とか、A型の子は頑張り屋さんらしいよ。これって因果関係はないですけどそういう傾向があるのですよ。このように患者さんに語れて納得して安心してもらうのが私達の仕事です。
 例えば、ヘルニアは、器質的には治療はできませんが痛みを止めることができます。ヘルニアは治りませんけど痛みは止まります。「人は、納得する理由を探している」これでは患者さんが納得できない。これでは病院と同じで、病院で見てもらえなかったものを私達がしっかり引き受ける腹を決めないと病院と同じことをやっていると思われてしまう。患者さんには、病院と鍼灸院と二つの選択肢ができる。

 
 今日は、要素分解しましょうと話しましたが、なぜ自分は鍼と灸をやっていて鍼と灸って何だろうか、もし鍼と灸以外で同じ効果をだすのは他に何があるのだろうか。これをゆっくり考えることは鍼灸師の教養を豊かにする時間だろうと思う。机の前にかじるだけが教育ではなくて、いろいろな経験をして、いろいろ討論して、いろいろな考えが世の中にあると知った中で、あなたは何を選択しますかと言うことを考えて、その末に東洋医学や鍼灸医療が成り立つと思う。無駄を排除せず、無駄を享受し、個性を享受し、対応性を享受すれば、この業界はもっと花開くことになる。


(研修委員 松岡輝人)



平成30年度 第5回学術講習会報告②「眼精疲労の中医弁証と鍼灸治療」[2019/02/23]

■日時:平成31年1月20日
【講演2】「眼精疲労の中医弁証と鍼灸治療」

 森ノ宮医療学園教員・附属みどりの風鍼灸室 于思 先生

 目が疲れる、物が見えにくいなどの訴えがあって器質的な疾患のないものを「眼精疲労」と呼ぶ。随伴症状として、頭痛・肩こり・イライラ・抑うつ・悪心・嘔吐などを訴えることもある。近年では若年層がスマホに依存し過ぎて目を酷使したものを「スマホ老眼」と呼ぶ。片眼の斜位が見られることもある。眼精疲労は、疾患になる前段階の「未病」や「半健康状態」として現れる確率が高いので、中医学的診断「弁証」が有効となる。ただし、現代医学的診断としての「弁病」を念頭において重症の眼疾患を診断すべきタイミングを逃さないことが肝要となる。

 中医学では、目は五臓六腑すべてにつながっていると考え、特に「肝」との関係は密接である。肝は血を蔵し、疏泄をつかさどり、その経脈は目を巡っている。目を使用すると、目の栄養源である「陰血」が消耗される。目を長時間酷使すると肝血が過度に消耗されるので、肝の陰血が行きわたらなくなる。自律神経の機能調整が不安定になった時は肝が関係して目に現れやすい。精を蔵し血を化成する腎精の働きが低下すると肝血不足という病理になる。また肝は筋をつかさどるので、夜の筋肉トレーニングは、肝血不足を招きやすい。加齢や房事過多のために腎陰や肝陰の不足する一方、肝陽が高ぶると目の閉塞を招きやすい。

 眼精疲労の中医弁証は、虚証タイプでは「肝血虚」「肝腎陰虚」「心脾両虚」「気陰両虚」に、実証または虚実夾雑証タイプでは「肝気鬱血」「肝火上炎」「肝陽上亢」に分類される。【配穴】治療穴の共通配穴としては、瞳子?(糸竹空)または太陽、攅竹(睛明)、合谷を使う。合谷は、虚中の実のある側のみを使用する。隋証配穴とその症状所見は以下のとおりである。


1 肝血虚:疲れ目、睡眠が浅い、血色がわるい等、舌淡、脈細
【配穴】太衝、三陰交、肝兪、膈兪

2 肝腎陰虚:疲れ目、ドライアイ、軽い充血、下肢のだるさなど、舌紅、脈弦細数
【配穴】太衝、肝兪、復溜、腎兪

3 心脾両虚:倦怠、疲れやすい、腹脹、泥状便など、舌淡、脈細弱
【配穴】神門、心兪、膈兪、脾兪、太白、足三里、三陰交

4 気陰両虚:疲れやすい、自汗、動悸+肝腎陰虚の症状所見、舌淡または紅苔少、脈細無力
【配穴】神門、膈兪、太白、足三里、三陰交、太衝、肝兪、腎兪、復溜

5 肝気鬱血:イライラ、怒りっぽい、抑うつ、胸脇苦満、疲れ目、梅核気、少腹部腹痛、舌紅、脈弦
【配穴】太衝、陽陵泉、三陰交、足三里、期門、内関、光明

6 肝火上炎:疲れ目、目の充血、頭痛、めまい、耳鳴り、不眠、舌紅、苔黄、脈弦数
【配穴】行間、陽陵泉、攅竹、聴会、翳風、風池、百会、光明

7 肝陽上亢:怒りっぽい、不眠、目の疲れ、目の充血、頭痛、健忘、足腰がだるい、舌紅、脈弦細数
【配穴】肝兪、復溜、腎兪、太衝、風池、百会、光明

 以上の講義に加え、実技披露もしていただき、受講者にとっては臨床のヒントになったと思います。   

[研修委員会 三木完二]    
平成30年度 第5回学術講習会報告①眼科領域の疾患〈IT眼症 スマホ老眼を中心に〉[2019/02/23]

■日時:平成31年1月20日

【講演1】眼科領域の疾患〈IT眼症 スマホ老眼を中心に〉
 日本眼科医会常任理事 今本量久 先生

 眼の機能としては、カメラの機能と同様に視覚の成立がある。水晶体と毛様体筋の働きにより、遠近調節することで像が結ばれ見えるのである。見え方には、正視・近視・遠視・乱視がある。近視・遠視は屈折異常によって起こる現象である。

 近視の原因としては、遺伝因子と環境因子がある。遺伝因子には家族的要因や地域的要因(東洋人、特に日本人に多い)がある。環境因子には田舎より都市部の子どもや近くを見る時間が長い・姿勢が悪い・見えすぎる眼鏡などがある。また時代の流行にも影響されることがある。近視を進行させる要因としては、近すぎる読書距離・読書姿勢の悪さ・見えすぎる(過矯正)の眼鏡などがある。近視の矯正は凹レンズやコンタクトレンズを使うことで網膜に像を結ぶようにしている。

 疲れ目と眼精疲労の違いについて、疲れ目は一時的な目の疲労で休養して回復する。
 眼精疲労は何時間も何日も目を酷使し休養が取れないと、頭・首・腰の疲れが取れないなど身体の不調を来すものである。
 眼精疲労の原因には、眼鏡やコンタクトレンズの度数が合っていないなどの調節性眼精疲労。目のまわりの筋肉の疲れ・斜視・不同視・弱視などの筋肉性眼精疲労。パソコンやスマートフォンの過度な使用、近くを見続けることによるドライアイなどの症候性眼精疲労。心身症・うつ病・ストレスなどの精神性眼精疲労がある。目以外にも慢性疲労、自律神経失調症・更年期障害・副鼻腔炎、むち打ち症なども原因になることがある。

 ドライアイについて、定義として「ドライアイは、様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがある」とある。原因として加齢・ストレス・デジタル機器使用時間の増加などがあり、日本では2000万人(5人に1人)といわれている。

 IT眼症について、IT機器を長時間あるいは不適切に使用することによって生じる眼の病気およびその状態が誘導となって発症する全身症状である。症状としては眼の病気や全身症状がる。原因としては、目の酷使・休息不足で涙が蒸発しやすくなりドライアイを引き起こすことがある。子どもへの影響として、ドライアイ・首や目の緊張・他人とのコミュニケーション不足などがあげられる。

 スマホ老眼について、近距離のスマートフォンを見続けることで目の筋肉の緊張が続き、ピント機能がうまくいかなくなり遠くの物がぼやけて見える現象である。老眼との違いは、老眼は加齢によって、水晶体や毛様体筋がかたくなり近くの物が見えにくくなるものであるのに対して、スマホ老眼は近距離のスマホを見続けることで目の筋肉の緊張状態が続き、目の疲労によって老眼と同様にピント調節がうまくいかなくなるものである。目以外の不調として、肩こり、頭痛、全身の倦怠感などがある。スマホやタブレットの長時間使用により、10代の若者を中心に急性内斜視患者が増加している。

 緑内障について、日本人の失明原因の第一位が緑内障である。40歳以上の20人に1人が緑内障で9割の人が気づいていない(無症状)疾患であり、加齢によりその割合が増加している。両眼の視野が重なるので異常に気づきにくく、視野の欠損を自覚する頃にはかなり進行しており、視野異常が出た時には既に視神経の90%が死んでいる。
自覚症状が乏しいため、40歳を過ぎたら年に1度は人間ドックなど検診の受診が早期発見にもなるので大事である。

 カラコンについて、最近装着している人が多いが、1度装着すると止められなくなったり、衛生上の問題もあり失明に繋がることもあり、使用には十分注意することが必要である。


 眼の解剖学的なことから、鍼灸治療に拘わる大切な疾患について、詳しく講演頂き今後の鍼灸治療に役立てたいと思いました。

〔研修委員会  中村 隆〕 
 



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