公益社団法人 大阪府鍼灸師会

素問・霊枢報告

報告霊枢勉強会報告 八月特別講義

講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生
日時 :令和五年(2023年)8月13日(日)第29回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者:会員29名(うちWeb17名) 一般17名(うちWeb8名) 学生16名(うちWeb16名)
*8月度は会場21名、ネット配信での受講が41名でした。

○八月特別講義「経絡(けいらく)治療の脈診(みゃくしん)について」

○『診家枢要(しんかすうよう)』
(配布資料18ページより)
篠原孝市「臨床に活かす古典」第44回/治療その4(『医道の日本』2015年12月号)
岡部は昭和18年(1943)9月の北京旅行の際、周氏医学叢書所収の滑伯仁の『診家枢要』を発見し、これを経絡治療の六部定位脈診の先駆と見なした。
広く知られる『診家枢要』の逸話であるが、実際にはこの脈書はその後の経絡治療にさほど影響を及ぼしていない。
たとえば昭和19年(1944)の最初に出た論文「経絡治療入門・診断篇」(第11巻1号)で、岡部は初めて祖脈の重要性に言及したが、その祖脈は、江戸期の『鍼灸抜萃(しんきゅうばっすい)や『鍼灸重宝記(しんきゅうちょうほうき)』に出た浮沈遅数(ふ・ちん・ち・さく)の四脈でも、また滑伯仁(かつはくじん)が診脈の提要とする浮沈遅数喝濇の六脈でもなく、『脈論口訣(みゃくろんくけつ)』に見える『三因方(さんいんぽう)』由来の浮沈遅数虚実の六脈であった。
*『診家枢要(しんかすうよう)』という本を岡部素道(おかべ そどう)先生が戦前に非常に評価しています。それについて、わたしは書いたことがあるのです。
○(配布資料18ページより)
 岡部は晩年まで『診家枢要』について言及しているが、周囲にもその意味は十分に理解されなかったようである。しかし、この書物は、意外な地点で、井上恵理(いのうえ けいり)・本間祥白(ほんま しょうはく)の継承者である井上雅文(いのうえ がぶん)に影響を与え、その後に思いがけない展開を迎えることになる。それは次のような問題意識のもとに展開された。
*『診家枢要』は岡部素道(おかべ そどう)先生が非常に推奨しました。後々まで推奨し『経絡治療(けいらくちりょう)』という雑誌の中で座談会まで開かれました。その座談会に触発され丸山昌朗(まるやま まさお)先生のお弟子の豊田白詩(とよだ はくし)先生が『診家枢要(しんかすうよう)』の注解まで書く、それから遠藤健一(えんどう けんいち)先生も『診家枢要』の注を書かれているというように重要視されています。だけど重要視されていますけど、ほとんど問題にされていない。
*この『診家枢要(しんかすうよう)』という本は『難経本義(なんぎょうほんぎ)』を書いた滑伯仁(かっぱくじん)という人が書いた本です。その本がヒントになって井上雅文(いのうえ がぶん)先生の素脈(そみゃく)による脈状診(みゃくじょうしん)は出来上がっています。ここにわたしは、それを入れてあります。(配布資料19ページ 「井上雅文」の項にある)
で、ここまでが戦前のことなんですが、その後25年ばかり、急に時間が跳んで1970年代になります。(以下、配布資料18~19ページ01~06項)


○経絡治療における1970年代の諸問題
○01 初期経絡治療の過程を歩んできた経絡治療家にとって、人間関係に関わらず、直面している課題は同じである。

*これは最近、特に感じています。岡部素道(おかべ そどう)先生が感じていることと、われわれが感じていることは同じだというふうに最近は感じます。つまり岡部素道(おかべ そどう)先生と井上恵理(いのうえ けいり)先生、あるいはわれわれ井上系の人間が考えていることは基本的に同じだ、というふうに考えています。直面している課題ですね。

○02 課題とは、〈陰虚(いんきょ)〉を前提とする施術=本治法(ほんじほう) (井上系経絡治療風にいえば、〈蔵病(ぞうびょう)〉〈経病(けいびょう)〉の区別、あるいは所謂(いわゆる)「五蔵病證(ごぞうびょうしょう)」を指標とする〈蔵病(ぞうびょう)〉の把握) と、その具体的な方法である六部定位脈診(ろくぶじょういみゃくしん)による経絡(けいらく)選定と、『難経(なんぎょう)』を援用した手足の五兪穴(ごゆけつ)の運用が一応実現したあとの問題である。

○03 たとえば選経論的問題
①陰経(いんけい)虚(きょ)を主證(しゅしょう)とするか、陰経(いんけい)実(じつ)を主證(しゅしょう)とするか。
②陽経(ようけい)の扱いの問題
*つまり虚證(きょしょう)か、実證(じつしょう)かというふうな問題、それから陽経をどういうふうに使うのかという問題がある。
○04 たとえば選穴論的問題
①六十九難(『難経(なんぎょう)』の篇)を援用することによって起こる要穴選穴の固定化、形骸化という弊害がある。それに対してもう一つ、逆に六十九難(『難経』の篇)による選経選穴とは、何を意味しているのかという問いかけもある。
②選穴論の問題を、穴(けつ)の主治症(しゅじしょう)の面から解決出来ないかという問題もある。
*藤木俊朗(ふじき としろう)先生は選穴論の問題を穴の主治症、つまり『明堂』という本の問題に置き換えようと試みられていた。
○05 これらの基本を為(な)す、陰陽虚実(いんようきょじつ)の診察、〈病證(びょうしょう)〉の判定 (病機や病因の判定)、 予後の判定の問題、これをどうするか。
○06 それらの診察、判定を、症状あるいは脈状(みゃくじょう)からどのように行うのか。
*診察、判定をどのからだの部位で行うのか、それは必要である。

○さいごに
*脈状を診て来た歴史というものを振り返れば、からだのどの部分で脈状を診るかということが大事になってきます。左右の脈を一体で診るという中に問題があり、岡部素道(おかべ そどう)先生はその部分で引っかかったのだと思います。
井上雅文先生は、その部分を人迎と気口というものを代入することによって乗り切ったと思います。まあ、その乗り切り方が良かったのか悪かったのかはわかりませんが。
岡部素道先生が構想された脈状についての考え方、あるいは井上雅文先生が、それをどういう部分で実用化、臨床化するかという時に行った試みについて、ある程度伝われば、この講義の意義があるのではないかと思います。これからも脈診や脈状を重んじる場合は、経絡治療を実践している人たちがやって来た試行錯誤を否定するか肯定するかは別にして、それを問題にした上で論を展開していただきたいと思います。
*これは皆さんが中医学の本の脈診の部分を見る時にも参考になります。中医学を実践している人が書いた本を見たら、その著者が脈診をやっているか否かは、すぐにわかります。

*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜、午前10時から12時まで大阪府鍼灸師会館3階です。勉強会のご案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。次回は2023年10月8日(日)、その次は11月12日(日)です。
(霊枢のテキストは現在2冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)


(霊枢勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)

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