素問・霊枢報告
報告霊枢勉強会報告 令和四年十二月
講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生日時 :令和四年(2022年)12月11日(日)第21回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者:会員25名(うちWeb16名) 一般17名(うちWeb6名) 学生15名(うちWeb15名)
*12月度は会場20名、ネット配信での受講が37名でした。
○『黄帝内經靈樞』經脈第十・第十一章
○01 三焦(さんしょう)、手の少陽(しょうよう)の脈は、
○02 小指(しょうし)の次指(じし)の端(はし)に起こり、
○03 上(のぼ)りて兩指(りょうし)の間(かん)に出て、
○04 手表(しゅひょう)の腕(わん)を循(めぐ)り、
(解説)
*手表というのは、手の陽に焼けやすい方のこと。(**手背である)
*「腕(わん)」は腕のこと。
○05 臂外(ひがい)の兩骨(りょうこつ)の間(かん)に出(い)づ。
(解説)
*「臂外(ひがい)の兩骨(りょうこつ)」: 臂(ひ)は前腕のこと。臂外の兩骨は、背側の二つの骨のことであるが、二つの骨というのがどこになるのかというところがある。『銅人』という書物によると「支溝」というつぼの所との注解がある。この部分の注解については、部位の解析をしているというよりも、つぼの名前をならべて流注の説明の代わりにしていると言うのが近い。
**当日配布資料36ページよりこの文章の注解を抜粋
『太素』注云、「兩骨間、支溝所在焉。」
滑壽曰、「循外關支溝會宗三陽絡四瀆。」【 **滑壽(かつじゅ)曰(いわ)く、「外關(がいかん)、支溝(しこう)。會宗(えそう)、三陽絡(さんようらく)、四瀆(しとく)を循(めぐ)る 】
○06 上(のぼ)りて肘(ひじ)を貫(つらぬ)き、
○07 臑(じゅ)の外(そと)を循(めぐ)り、
**「臑(じゅ)」は上腕のこと。
○08 肩(かた)に上(のぼ)りて足(あし)の少陽(しょうよう)の後(しりえ)に交わり出(い)づ。
(解説)
*ここで問題になるのは「交わる」という文章である。他の経脈との関係があるということだろうか。では他の経脈との関係というのは臨床的にどういう意味があるのだろう。私たちは二つの経脈あるいは三つの経脈に関係があるという時、そこにどんな臨床的な内容があるのかを考える。それは当たり前なことだ。
○09 缺盆(けつぼん)に入(い)りて、 10 膻中(だんちゅう)に布(し)き、
(解説)
*「布(し)き」というのは、そこに、流れていくということである。
○11 散(さん)じて心包(しんぽう)を落(まと)い、
(解説)
*「落(まと)う」は「絡(まと)う」と同じである。『脈經(みゃくきょう)』では「落」の字が「絡」の字にしてある。字がまちがっているわけではない。
○12 膈(かく)を下(くだ)り、 13 循(めぐ)りて三焦(さんしょう)に屬(ぞく)す。
○14 其(そ)の支(し)なる者(もの)は、 15 膻中(だんちゅう)從(よ)り、 16 上(のぼ)りて缺盆(けつぼん)に出て、 17 項(こう)に上(のぼ)り、 18 耳後(じご)に繋(か)け、 19 直(ちょく)に上(のぼ)りて耳(みみ)の上角(じょうかく)を出て、 20 以(もっ)て屈(くっ)して、 21 頬(ほお)に下(くだ)り、 22 䪼(せつ)に至る。
(解説)
*こんな複雑な流注が一体どのようにして成り立ったのだろう。馬王堆(まおうたい)から出土された、この篇より古いものでは、もっとアバウトに書いてあって、これほど複雑なものではない。
わたしが一つ考えたのは、このようなことである。
もともと流注というものは、もっとアバウトなものであったろう。『甲乙經(こういつきょう)』という本などに記述があるように、つぼの位置が生じたことによって、その位置を取りこんで「經脈篇(けいみゃくへん)」のような精緻なものが出来上がったという可能性があるのではないか。
当時「經脈篇」の中に、つぼの位置の表現が組み込まれた結果であろうと思う。つぼとつぼを結びつけて流注(るちゅう)が出来ているのではなくて、経脈の流注をつぼの位置にからめていくだけで、このように精緻に分かれたのではないか、そんなふうに思っている。そうでなければ、17節から19節の記述のような複雑な流注はわかるわけがないと思う。ここで、くれぐれも申しあげておくが、つぼとつぼとを突き合わせて経脈が出来たということでは無くて、経脈が先ずあり、その上で、つぼの体系も別にあって、それが結び合う過程でこの篇が出来た、そんなことがあるのでは無いかと思う。
○23 其(そ)の支(し)なる者(もの)は、 24 耳後(じご)從(よ)り、 25 耳中(じちゅう)に入(い)り、 26 出(で)て耳前(じぜん)に走り、 27 客主人(きゃくしゅじん)の前(まえ)を過ぎて、 28 頬(ほお)に交わりて、 29 目の鋭眥(えいし)に至る。 (解説)
*「目の鋭眥(えいし)」は目の外側(**目じり)のこと。
○30 是(こ)れ動(どう)ずれば、
○31 則(すなわ)ち病(やまい)、耳聾(じろう)して渾渾焞焞(こんこんとんとん)。 (解説)
*耳聾(じろう)は耳が聴こえなくなること。
*渾渾焞焞(こんこんとんとん)は、耳が聴こえなくなった様を形容した表現である。この表現は『孫子』の中にも出て来るようである。
*「渾渾(こんこん)」は水のわき出る様」「みだれにごる様」つまり「ものが明らかでない様」、「焞焞(とんとん)」は「暗い様」
○32 嗌(のど)腫(は)れ喉痺(こうひ)す。
(解説)
*嗌(のど)も喉(のど)も、何れも、のどのことである。
○33 是(こ)れ氣(き)の生(しょう)ずる所(ところ)の病(やまい)を主(つかさど)る者(もの)は、
○34 汗(あせ)出(い)で、
○35 目(め)の鋭眥(えいし)痛(いた)み、
○36 頬(ほお)痛み、
○37 耳後(じご)、肩臑(けんじゅ)、肘臂(ちゅうひ)の外、皆(み)な痛み、 38 小指(しょうし)の次指(じし)、用(もち)いられず。
(解説)
*34節の「汗(あせ)出(い)で」以外、35節から38節までは流注でも解釈できる。
○39 此(こ)の諸病(しょびょう)を爲(な)す。 40 盛(さか)んなれば則(すなわ)ち之(これ)を寫(しゃ)し、 41 虚(きょ)せば則(すなわ)ち之(これ)を補(おぎな)い、 42 熱(ねっ)すれば則(すなわ)ち之(これ)を疾(すみ)やかにし、 43 寒(かん)すれば則(すなわ)ち之(これ)を留(とど)め、 44 陷下(かんげ)すれば則(すなわ)ち之(これ)に灸(きゅう)す。 45 盛(さか)んならず虚(きょ)ならざれば、 46 經(けい)を以(もっ)て之(これ)を取る。 47 盛(さか)んなる者は、 48 人迎(じんげい)大(だい)なること寸口(すんこう)に一倍す。 49 虚(きょ)する者(もの)は、 50 人迎(じんげい)、反(かえ)って寸口(すんこう)より小(しょう)なり。
*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜、午前10時から12時まで大阪府鍼灸師会館3階です。COVID-19感染予防対策の下、勉強会のご案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。 2月12日(日)は「經脈篇(その四)」の予定です。
(素問勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)