公益社団法人 大阪府鍼灸師会

素問・霊枢報告

霊枢勉強会報告 令和四年八月

講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生
日時 :令和四年(2022年) 8月14日(日)第17回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者:会員34名(うちWeb26名) 一般23名(うちWeb13名) 学生30名(うちWeb29名)
*8月度は会場19名、ネット配信での受講が68名でした。

○八月特別講義「蔵府・経脈・経穴の関連について」


○附録 現在の臨床の中の〈五蔵〉〈経脈〉〈経穴〉についてのメモ
○有機的一体性

 〈五蔵〉〈経脈〉〈経穴〉というものを有機的一体性を持った構造的なものと見るかどうかが重要である。これは文献的にではなくて、臨床的に重要だと思う。つまり肺は肺なのか、それとも他の蔵と関わる形で肺なのかという問題である。
「肺は肺ではないか!」と思うかもしれない。しかし中国医学の場合には、肺は肺ということではなくて、肺と他の蔵との関係にしかすぎないのである。肺は、肺と肝の関係の中で、あるいは肺と心の関係の中で肺なのであろう。肺と腎、肺と脾(ひ)というものも相互に結び合っている。それが有機的一体性である。
では、この有機的一体性というものは何によって担保されているのだろうか。これは陰陽論(いんようろん)と五行説(ごぎょうせつ)と言える。表裏の関係と相剋(そうこく)の関係である。肺は大腸と表裏の関係にある。肺(金)は肝(木)や心(火)と相剋(そうこく)関係にある。

 現代では、手の太陰肺経は手の陽明大腸経と表裏の関係とされる。これは表裏として互いに使えるということを示唆するものである。また手の太陰肺経は、足の厥陰(けっちん)肝経と相剋(そうこく)の関係にある。
これは手の太陰肺経を補って、足の厥陰肝経を瀉(しゃ)す、あるいは足の厥陰肝経と表裏関係にある足の少陽胆経を補うということを示唆している。
五蔵と六府の〈有機的一体性〉というものが無くなると、これらのことが全て無くなるのである。

 私たちはこの古代の有機的一体性というものをもっとも適切に駆使するべきだと考えている。そして古代より伝わる、この有機的一体性を否定した場合に、それに代わるモデルはどのようなものであるか、そこのところは欲しいところである。

 〈五蔵〉や〈経脈〉を〈有機的一体性〉とみなすことにするか、あるいは〈経験の蓄積〉によって新しい〈有機的一体性〉を見出そうとするのか、そこのところを考えてみたい。ここで経験の蓄積によって有機的一体性を見出すということは簡単ではなかろう。古代の有機的一体性のほうを採るとしたら、その論理の必要性と、限界性を充分知っておくことが不可欠である。

○経脈と経穴の関係

 出土文物の馬王堆(まおうたい)帛書(はくしょ)『陰陽十一脈灸経(いんよう じゅういちみゃく きゅうきょう)』『足臂十一脈灸經(そくひ じゅういちみゃく きゅうきょう)』、あるいは伝承古典の『霊枢(れいす う)』の「経脈篇」では、経脈は流注(るちゅう)、経脈病證(けいみゃくびょうしょう)、鍼灸法という形式で登場する。そこに排除されているのは兪穴(ゆけつ)である。経脈説というものは概(おおむ)ね、このような ものである。

 最近、四川省、老官山(ろうかんざん)から出土されたものでは、経脈につぼが乗っていると言う。そうであるならば『霊枢』「経脈篇」で流注と経脈病証に真剣になっているのはなぜなのだろう。「経穴がないのか」ということを逆に問われないのはなぜなのだろう。

 黄龍祥(こうりゅうしょう)氏は、兪穴(ゆけつ)と兪穴を結ぶ線は整美的なもの、きれいに整理して整えたものに過ぎないと考えている。その場合、兪穴は実線ではなくて点線上のものということになり、兪穴と兪穴の間を結ぶ線は臨床的に意味がないということを述べている。これは、経脈は点線なので、穴(けつ)と穴(けつ)の間を切経することは意味が無いということを言っているのと同じである。

 しかし、そうであるならば、出土文物や『霊枢』「経脈篇」の経脈は、経脈の「本当の根拠」である兪穴をすべて排除し、点線を実線で書かれていることになる。しかし、そのような不自然な作為の理由はまったく不明である。

 わたしは点線風の経脈説はいただけないなと思っている。『甲乙経』(こういつきょう:**鍼灸甲乙經も同じ)、あるいは『明堂(めいどう)』以来、経脈と経穴を定めるのに試行錯誤があり、これが1000年ほど続いている。元(1279~1367年)の時代の末に、やっと『十四経発揮(じゅうしけいはっき)』という本によって、現在のかたちの経脈・経穴になった。最初から兪穴と兪穴を結んだものが経脈であるなら、1000年もの試行錯誤に意味はない。

 経穴と経脈の関係というものは、やはり1000年の試行錯誤を見るとなかなか一概には行かないものである。経穴と経穴を結び付けたものが経脈とは、ちょっとなかなか言えないものだ。

 経脈病證(けいみゃくびょうしょう)と『明堂(めいどう)』の兪穴病證(ゆけつびょうしょう)の間には関わりがあるということは、よく知られている。『霊枢(れいすう)』の経脈篇の経脈病證、是動病(ぜどうびょう)、所生病(しょせいびょう)と、『明堂』の兪穴病證は関係があるとは、よく知られている。これは、その通りだと思う。

 しかし次に問題になるのは、経脈病證から兪穴病證が作られたのか、それとも、その逆なのかということである。経脈病證を分解して兪穴病證が作られたのか、兪穴病證が始めからあって、後から経脈病證が出来たのか、経脈病證が出来た時に、つぼをすべて外して点線を実線にしたのかという問題が出て来る。そのどちらであっても経脈病證や兪穴病證の〈主治が可能となる条件〉が示されていない事情に変わりはない。経脈病證と兪穴病證の問題は〈条件〉あるいは〈診察〉の問題を解決しない限り恣意的(しいてき)な使用しかできないのであろう。

 私も『明堂』の復元や『銅人腧穴鍼灸図経(どうじんしゅけつしんきゅうずけい)』の主治病証に、若い頃から現在まで関心を持っている。なにしろ経脈病證(けいみゃくびょうしょう)や兪穴病證(ゆけつびょうしょう)は、どのような場合ならば、というところが抜けている。それは、もう決定的である。症状の羅列で本当に良いのだろうか。どういう条件の時ということが示唆されずに、あのような形式になったということ自身を私は疑わしく思っている。

 『明堂』の問題は復元についてもさることながら、臨床に使うという観点から観て、条件の問題が解決されない限りは臨床応用までは行かないだろうと思う。経脈病證だけではなくて、兪穴病證においても、どのような条件の時に、この穴が使えるのかが不明だと、使えないと思う。

*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜、午前10時から12時まで大阪府鍼灸師会館3階です。COVID-19感染予防対策の下、勉強会のご案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。次回は2022年10月11日(日)「終始第九」(その2)です。

(霊枢のテキストは現在2冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)

(素問勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)

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