公益社団法人 大阪府鍼灸師会

素問・霊枢報告

報告霊枢勉強会報告 令和三年十月

講師: 日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生
日時: 令和3年10月10日(日)
会場: 大阪府鍼灸師会館 3階  出席者: 会員16名(うちWeb10名) 一般15名(うちWeb5名) 学生6名(うちWeb6名)
*7月度は会場16名、ネット配信での受講が21名でした。
○『黄帝内經靈樞』本輸第二・第十九章
01 肺は大腸にごうす。
02 大腸は、
03 傳道でんどうなり。

04 心は小腸に合す。
05 小腸は、
06 受盛じゅせいの府なり。

07 かんたんに合す。
08 たんは、
09 中精ちゅうせいの府なり。

10 は胃にごうす。
11 胃は、
12 五穀のなり。

13 じん膀胱ぼうこうに合す。
14 膀胱は、
15 津液しんえきの府なり。

16 少陽しょうようは腎にぞくす。
17 腎はのぼりて肺に連なる。
18 ゆえ兩藏りょうぞうおさむ。

19 三焦さんしょうは、
20 中瀆ちゅうとくの府なり。
21 水道で、
22 膀胱にぞくす。
23 の府なり。

24 六府ろっぷともがっする所の者なり。

(解説)
*私たちは、手の太陰(肺経)と手の陽明(大腸経)が表裏関係にあるということを知っており、日常的に使っている。
経脈を治療に使う者にとって、この古典的な規定は、大きな枠組みであり絶対の規定と言える。絶対の規定というのは、それが法則ということではない。その規定に従わないと診察も、治療の効果も、ぐちゃぐちゃになってしまうというぐらいのものだ。

○01 肺合大腸。
 02 大腸者、
 03 傳道之府。
(肺は大腸に合【ごう】す。大腸は、傳道【でんどう】の府【ふ】なり)

*『素問』靈蘭秘典論れいらんひてんろんにも「大腸者、傳道でんどう之官、 變化へんか出焉。(**大腸は傳道の府、変化ここに出づ)」という文章が出てくる。
傳道でんどう之府:ものを食べた時に糟粕そうはくを伝道する場所のこと。

*この文章を見ると、ここで言う「大腸」は解剖学でいう「大腸」と同一だと思えてくる。しかし、そういうふうに思わせてしまうところが問題なのである。傳道之府でんどうのふと言っても当時は誰も解剖学をやっていない。この当時にも解剖学があったと平気で言えるひとがいるが、当時においては人体解剖をすることは奇跡に近い。『霊枢』の中に解剖の記述があるという向きもおられるだろうが、たったの一行である。
ここでいう元々の「大腸」のイメージは、ものを食べた時に、それがからだの下の方に動いていって排泄されるという認識であったろう。その痕跡がこのような文章なのだ。しかしである。いくら大腸の現代医学的な機能がわかっても、肺と大腸が表裏をなすということが、どのようなことであるか、それはわからないだろう。伝統医学というものは本来そういうものなのだ。肺と大腸が、あるいは手の太陰(肺経)と、手の陽明(大腸経)が表裏関係にあるという規定が、古典文献の中に有って、それが現在まで受け継がれている。経脈を考える以上は、現在学んでいる解剖学の「大腸」と古典文献にある「大腸」を区別する必要がある。


○04 心合小腸。
 05 小腸者、
 06 受盛之府。
(心は小腸に合す。小腸は、受盛【じゅせ い】の府なり)
郭靄春かくあいしゅんという人はこのように言う。
「盛」という字は「成」の字ではないか。

*『素問』「靈蘭秘典論」れいらんひてんろんの中に「小腸者、受盛之官、化物出焉。(**小腸は受盛の官、化物ここに出づ)」という文章がある。

*小腸は伝統医学の中では現代医学的な受け取りかたをしても、まあ許せるかという数少ないものの一つである。


○07 肝合澹。
 08 澹者、
 09 中精之府。
(肝【かん】は澹【たん】に合す。澹【たん】は、中精【ちゅうせい】の府なり)

*「中精」は「中清」ではないかという説がある。 劉衡如りゅうこうじょという人は『甲乙經こういつきょう』では「中精之府」が「清淨之府」であると指摘している。

郭靄春はこのように記している。
「中精: “ 精 ” 是 “ 清 ” 的誤字。應據《靈樞略・六氣論篇》改正。」

最近の注解者である周海平しゅうかいへいは、『禮記らいき』「緇衣しい鄭玄ていげん注を引いて「精」は「清」でも通じるのでかまわないと言う。
(『禮記らいき』「緇衣しい鄭玄ていげん注:“ ‘ 精 ’ , 或爲‘ 清 ’。”)

*『素問』「靈蘭秘典論れいらんひてんろんに、「澹者、中正之官、決断出焉。(**澹は中正の官、決断ここに出づ)」とあり「中精」が「中正」となっている。しかし、この関わりを論ずる人はいない。

○16 少陽屬腎、
 17 腎上連肺。
 18 故將兩藏。
(少陽【しょうよう】は腎に屬【ぞく】す。腎は上【のぼ】りて肺に連なる。故【ゆえ】に兩藏【りょうぞう】を將【おさ】む)

*この文章は、読むとすぐにおかしいことがわかる。『太素經』と『甲乙經』では「少陽」が「少陰」になっている。「少陰が腎に屬す」となるのが当然のことだ。

*少陰の経脈というのは「腎」と関係している。腎の経脈というのは、肺とつながっている。そこで、その二つの蔵というものをつかさどるのだと、この文章は言っている。肺と腎というものは関わりが深いということは昔からよく言われている。ここで皆さんが伝統医学を学ぶにおいて忘れてはいけないことは、腎とか肺とかを一つ一つで考えてはいけないということである。腎を考える時に必ず肺を考える、肺を考える時に必ず腎を考える、腎を考える時に膀胱を考える、そして肺を考える時に大腸を考えるというような関連で考えなければ、伝統医学はほとんど意味を持たない。一つずつの蔵や府で考えるのであれば、構造的な病態の理解はとても出来ない。一つは、そこを注意しておきたい。

○19 三焦者、
 20 中瀆ちゅうとく之府也。
 21 水道出焉、   22 屬膀胱。   23 是孤之府也。 (三焦【さんしょう】は、中瀆【ちゅうとく】の府なり。水道出【い】で、膀胱に屬【ぞく】す。是【こ】れ孤【こ】の府なり)
*「孤之府」とは、ほかの蔵と表裏関係がないということである。この当時の六府に含まれるところの「三焦」は「府」としての三焦であり、上焦、中焦、下焦を構成要素とする「三焦」ではない。泌尿器系の何かの臓器というふうなものであったと思う。

とく」は『説文』に「溝也」、『白虎通』に「濁也」とある。『大漢和辞典』7-331参照。

さらに勉強したい方のために】
京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
(https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp)
 渋江抽斎 ⇒ 検索
黄帝内経霊枢24巻首 1 巻で『靈樞講義』
のマイクロフィルム画像を見ることが出来ます。

*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜、午前10時から12時まで大阪府鍼灸師会館3階です。COVID-19感染予防対策の下、勉強会のご案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。12月12日(日)は「小針解 第三」の後半、あるいは「邪氣藏府病形 第四」です。お楽しみに。

(霊枢のテキストは現在5冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)

素問勉強会世話人
東大阪地域 松本政己

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