報告令和6年度7月度学術講習会
令和6年度7月度学術講習会開催にあたり
気温30度超えが続く7月の折、第2回研修事業がスタートしました。第1回開催に続き、今回も本会が初めての試みといえる、「動物鍼灸」を題材に研修会をおこないました。
鍼灸業界としても、実際のワンちゃんをモデルにして行なったセミナーの例を私は聞いたことがなく、当初、衛生的な問題や、鍼灸師が動物に鍼を打って良いのか、などの質問を受け戸惑ってしまいました。しかし、業としないことや、自分の飼っているペットに対してのケアということでご理解いただけたらと考え、開催する運びとなりました。
岸ゆり先生に講師をお願いした経緯は、岸先生が鍼灸学生1年生の時に、私が授業をしていまして、その時初めて獣医師の学生がいると知りました。
そして時が経て、同じく鍼灸学校1年生で朝倉京子さん(ワンちゃんをモデルで3匹提供してくれた)に授業をしているとき、朝倉さんが「岸先生ご存じですか?実は私の犬を診てもらっているのです。鍼灸もしてくださっているのですよ。」という話を聞いた時に、この研修会を開ける、と考えた次第です。
何よりも飼い主さんとワンちゃんと先生との信頼関係がしっかりしているので、安心して研修をおこなえると確信しました。さらに朝倉さんのワンちゃんが人なつっこいことも幸いし、人に噛みついたり、吠えたりすることなく、無事に進めることが出来ました。
会場には35名定員の満員御礼で、WEB受講72名、合計で約107名にも及ぶ参加を得ることができました。いかに動物鍼灸に興味があるかが伝わってくる研修会と考えます。可能な限り2回3回とやっていきたいと考えておりますので、各先生方、ご理解の程よろしくお願いいたします。
つづいて、下田達也先生に研修会レポートをまとめていただきましたので、ご一読くださいませ。
(大阪府鍼灸師会研修委員長 清藤直人)
獣医師による動物鍼灸治療
【会場】:大阪府鍼灸師会館3F、WEB【講師】:岸ゆり先生(ラファエル動物病院 獣医師 鍼灸師)
【研修内容】
①獣医としての西洋医学と東洋医学
西洋医学が得意とするもの・・・手術、痛みの速攻除去、症状の量的変化(血液検査)、視覚的評価(レントゲン、エコー等)。
東洋医学が得意とするもの・・・定量化できない不定愁訴の改善(更年期障害、自律神経失調症)、末期症状や慢性症状へのQOL向上、老齢犬特有の症状への手解き(夜泣き、イライラ、減薬等)。
②治療
~問診~
飼主さんが判断し伝える情報が「思い込み」及び「勘違い」であり正しい情報が得られないケースが多い。 例)咳が主訴なのに魚の骨が引っかかっている、吐気がある 等 脳腫瘍や癲癇発作なども体表観察でなるべく早く診断することでQOL向上につながる。
~触診~
動物は四肢末端、腹部を触られることに敏感→頸部背側、背部兪穴が中心
TH9~TH12間が詰まっているので触診が困難だが、椎骨の触りすぎもストレスになるので注意が必要。
実技では会場に来ていただいたワンちゃんをモデルに脈診と筋肉、椎骨、経穴の確認。反応穴を使い脈が変わるか体験。
~テスト~
歩行・姿勢の観察とテスト→運動器障害の絞りだし
姿勢反射の代表的なテスト・・・CP(プロプリオセプション)、一側起立(歩行)
脊髄反射の代表的なテスト・・・屈曲反射、体幹皮筋反射
~家でのメンテナンス~
これが一番大事
ホットタオルでの補法やローラー鍼での瀉法、皮膚揺らしなど
やりすぎ注意。適切な強さで適切な回数行うことが大事
③ヒトとイヌの違い
例)鎖骨・・・イヌにはヒトでいう鎖骨が無い。代わりに鎖骨画がある。鎖骨画はヒトの胸鎖乳突筋、僧帽筋と類似。
ヒトとイヌでは筋肉、骨の構造や数、可動域、が違う。→ツボの位置が違う
④高度医療と東洋医学の統合によるQOLの改善を試みた症例
1、ステロイド治療後の威嚇行為に対する温灸、背骨ゆらし→症状軽減
2、左下顎切除後の放射線治療法による放射線患部の熱傷に対し銀鍼にて瀉法→著効
⑤まとめ
高齢や飼主さんの希望で麻酔が必要な検査ができない動物に東洋医学で治療するために大切なこと
1、正確な体表観察が出来ること
2、飼主さんが情報を提供しやすい環境
3、運動器障害では解剖学の知識が必須
4、最新の医学情報もアップデートする
(大阪府鍼灸師会研修委員 下田達也)