公益社団法人 大阪府鍼灸師会

研修会&講座のお知らせ

令和5年度第2回(7月度)学術講習会報告

【日時】令和5年7月9日(日) 13:30~16:45 学術講習会(ハイブリッド開催)
・学術講習会(ハイブリッド開催)
 ①「緩和ケアにおける補完代替療法」
  講師:大野 智 先生(島根大学医学部附属病院 臨床研究センター 教授)

令和5年度第2回(7月度)学術講習会報告

大野先生は、NHKの「あさイチ」や「ためしてガッテン」「クローズアップ現代」などの監修をされたり、トクホ(特保(特定保健用食品))の審査委員もされており、統合医療・補完代替医療の研究や委員を2002年より第一線で行われています。 「緩和ケア」とは、WHO2002年の定義では、「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者と家族の痛み、そのほかの身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に同定し適切に評価し対応することを通して、苦痛を予防し緩和することにより、患者と家族のQuality of Lifeを改善する取り組みである」とされていて、終末期医療やがん末期のターミナルケアだけを指すことではないと言われています。
がん治療と緩和ケアの関係もがんと診断された時点からがんに対する治療と並行して緩和ケアを行い、状況に合わせて割合を変えていくようになっています。
「補完代替療法」に対する誤解があり、利用する患者はレアケース?ではないし、補完代替医療に「興味を持っている」人が4割+「利用している」人が4」割で83%にも及びます。
「補完代替療法」を利用する患者の生存率が低いというのも誤解で、ある論文で補完医療の利用は、5年生存率の低下と関連し独立した死亡リスクであったと報告されていますが、補完医療の利用者は①手術の拒否②化学療法の拒否③放射線治療の拒否④ホルモン療法の拒否するケースが多く、治療の開始の遅延も問題でこれらを補正すると生存率に差がないことがわかっています。
また、「補完代替療法」について医療者が相談にのることは決して無駄ではなく、緩和ケアの論文で「希望を持ちながら心残りのないようにできた」と無駄でないことがわかっています。
では、この「補完代替療法・統合医療(厚労省は統合医療と呼んでいる)」とは、「近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学を組み合わせて更にQOLを向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」とされていて、この補完代替療法には、8つの療法の分類と療法の例として、国家資格等や国の制度に組み込まれているものとその他、に分類がなされています。鍼灸は身体への物理的刺激を伴うもので国家資格等に分類されています。
20年以上前ですが、わが国の初、厚労省のがんの補完代替療法の全国実態調査では、44.6%の利用者があり、欧米と同じ結果だそうです。利用している内容としては、健康食品・サプリメントが96.2%、気功3.8%、灸3.7%、鍼3.6%、となっています。
最近の調査としては、厚労省の調査と患者の対照の背景が違うものの、緩和ケア病棟で亡くなったがん患者における補完代替療法の使用実態と家族の体験の調査(2017年)でも利用者が52.5%あり、サプリメントが54%と半分になり、運動・マッサージ・温泉温熱療法・マインドフルネス・食事療法などが増えています。
補完代替療法の利用目的(期待していること)は、2017年の厚労省の研究班の報告では、病気の進行抑制40%、病気の治癒22%、苦痛症状緩和40%、免疫力向上43%、精神的な希望47%、となり、身体的・精神的な助けになっていること実感されているそうです。
問題点は、①健康被害として「自然・天然」は安全を意味していないことや補完代替療法にも健康被害のリスクがあり、例として、医薬品との併用被害のセントジョーンズワートを挙げられていました。その他、②経済被害として契約・請求トラブルに注意や高額な治療ほど効果が高いわけではないこと、③機会損失として標準治療を否定しているものには近づかないこと、が挙げられてます。
補完代替療法が「効く」のは、裏付けである科学的根拠(エビデンス)が必要です。科学的根拠には種類がありますが、臨床試験「一次情報としてはランダム化比較試験が最も信頼性が高い」が必要です。ところが、治療効果に関してほとんどの医療行為は治療効果がグレーゾーンで「医療の不確実性」と言い、補完代替療法の科学的根拠(特にランダム化比較試験)はあるのですが、どのように効くのかの見極めが重要になります。
補完代替療法に関するRCT報告数は最近では2000件を超えています。その報告の一例として、倦怠感を自覚する進行がん患者の倦怠感の改善にアメリカ人参(Ginseng)や倦怠感を自覚する乳癌患者への倦怠感やQOLの改善にヨガ(Yoga)は効果があるのが分かっています。また、副作用や相互作用もあり、健康食品と医薬品の相互作用も分かっていますので、信頼できる情報源である厚生労働省の「統合医療」情報発信サイト[eJIM]や書籍、編集/日本緩和医療学会発行の「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス」を推奨されています。
この本の中には、鍼灸に関する臨床疑問として、がんに伴う身体症状を軽減するか?や、何等かの望ましくない有害事象を引き起こすか?などSR(ランダム化比較試験やシスマティクレビュー)にて評価されています。
大野先生自身、抗がん剤による末梢神経障害の患者さんに鍼をしていて、個人的な見解になるそうですが補完代替療法として、鍼灸治療が有効であると言われていました。
科学的根拠に基づいた医療(EBM)で考えると①科学的根拠②患者の病状・社会背景・医療環境③医療者の技術・経験(専門性)④患者の好みや価値観の4要素をバランスよく統合し、より良い患者ケアに向けた意思決定を行うための行動指針があり、5stepsを経て患者への適用を行います。この中で補完代替療法のエビデンスは、情報の見極め方・向き合い方のポイントがあり、「治療方針の意思決定はエビデンスで行われるのではなく、医療者と患者でなされるべきである」と言われています。
重要なのは医療者と患者のコミュニケーションであり、注意点は、①パターナリズム「強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意思は問わずに介入・干渉・支援すること」で患者の利益を一方的に決めつけていることがある。②「ダメ・絶対!」の弊害として補完代替療法=悪いことというイメージが植え付けられてしまう。③自己決定権の誤解として行き過ぎた患者の自己責任論が医師の無責任に繋がることがある。④情報欠如(知識の有無)による医師と患者の意思が通じないことや意思決定能力がないと決めつけることがあります。
コミュニケーションのコツでは、①患者の不安や悩みを受け止める[傾聴]、②患者の不安や悩みを解決・解消するために何ができるか一緒に考える姿勢を示す、③補完代替療法が利用目的に合致しているか科学的に吟味することは[医療者としての責務]、です。エビデンスを教えてもらうだけではなく、強制することではないのがEBMであり、安心感を得たい、一緒に話し合い、一緒に解決するというコミュニケーションをとり納得したいと言われていました。
「緩和ケア」「補完代替療法」の総論を解説頂きました。もう少し詳しく知りたい時には、大野先生が書かれた書籍「健康・医療情報の見極め方・向き合い方」「民間療法は本当に「効く」のか」があるそうです。補完代替療法の鍼灸の受療があまり増えていないので、鍼灸師として科学的根拠をまず知識として学び、補完代替療法を望む患者さんには、より良いコミュニケーションをはかりながら、患者とその家族のQOLを改善したいと思いました。
(研修委員:思川裕子)


 ②「緩和ケアにおける鍼灸師の役割」(実技供覧)
  講師:福田 文彦 先生(明治国際医療大学 鍼灸学部 鍼灸学科 特任教授)

令和5年度第2回(7月度)学術講習会報告

最初に「はり・きゅう治療(師)に必要なこと」として、
□ “がん患者を知る“アセスメント(全身状態を知る、精神状態を知る、キーパーソンを知る)
□ ”何ができるか“というアセスメント
□ ”作用機序・エビデンス・経験“に基づく介入
□ “孤独”にならない
を挙げられた。

「緩和医療(ケア)」は、以前はがん病変の治療を終えてからの治療と考えられていたが、近年は発症当初から緩和医療が始まる。トータルでみた治療のステージとして、「がんサバイバー」「ターミナル」の段階に分けられている。
「積極的治療」には、手術療法、化学療法、放射線療法がある。
「がんサバイバー」とは、緩和医療推進、相談支援・情報支援、就労を含めた社会課題対策、社会連携に基づく対策・患者支援、ライフステージに応じた対策をさす。
「ターミナル」は、苦痛の軽減、QOLを高める、人間らしい生活、が挙げられている。
鍼灸治療は、発症当初から「症状緩和」、「精神的援助・チーム医療」として介入できることや、「発症予防」あるいは「再発予防」としての効果がみられる。
それから、「担がん患者」の鍼灸治療を受診する理由を調査した結果、「家族、親戚、友人の紹介」や「癌になる前から鍼灸治療を受診」している人が多いことから、まさに、「発症予防」や「再発予防」が期待される。
「がん患者の苦痛=全人的苦痛(トータルペイン)」には、とりわけ精神的苦痛(不安、苛立ち、孤独感、恐れ・うつ状態)の関与が大きいと説かれた。
「はり・きゅう治療(師)にできること」として、疼痛緩和効果、自律神経機能調整効果、血流改善、筋緊張緩和効果、そしてとりわけリラックス効果が挙げられた。患者の身体によく触れる身体感覚コミュニケーションが発揮されやすい。 がん患者の精神状態について、不眠症、不安、うつ病などの精神症状を伴うがん患者に対して、鍼灸は有効な結果が示されているが、いまのところ、どんな治療法が効果的なのかという臨床結果はまだでていない。
実技披露では、「がん患者の精神症状に対する鍼灸治療」として、前頭前野への治療が紹介された。「左右頭維」(側頭筋の圧痛点)に100Hzの通電が行われた。また、末梢神経障害では、陰陵泉―太谿(三陰交)を2Hzで行われる。
講師の福田先生は、講義中、終始柔和な表情をくずさないでお話しされ、優しさがにじみ出てくる温かい講演であった。

(報告者:三木完二)

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