研修会&講座のお知らせ
令和4年度第5回(2月度)学術講習会報告
【日時】令和5年2月12日(日) 13:30~16:45 学術講習会(ハイブリッド開催)
・学術講習会(ハイブリッド開催)
①「耳鍼の基礎と神経学的アプローチ」(実技供覧)
講師:原 浩之 先生(はら鍼灸院 院長)
②「ほんとは凄い!学校で習う管鍼法、使っていますか管鍼」
~臨床に活かす杉山真伝流の鍼術「管術の妙」~(実技供覧)
講師:尾河 由清 先生(大阪医専 専任教員)
講演①「耳鍼の基礎と神経学的アプローチ」
講師:原 浩之 先生(はら鍼灸院 院長)
耳針治療の基本と臨床における効果、神経学的アプローチについてご講義、そして実技 の実演をしていただきました。
原先生は耳介療法の創始者であるポール・ノジェ博士のご子息のラファエル・ノジェ医 師から直に学ばれて耳介療法を臨床されている先生でANSG( 耳針&神経学スタディグ ループ) の代表を務めておられます。貴重な研修を実施いただいた内容は以下の通りで す。
1.耳介療法(Dr.Stantonによる説明を鶴浩幸先生が報告されたものを紹介しながら解説) ・フランスの開業医Paul Nogier 博士によって1950 年代初期に始められた耳による治 療。
人体と耳との相関関係:” ソマトトピーの逆位”
・病理的問題ではなく、主に身体の機能的な問題に対し耳介の反射部位に刺激を加え疾 病の治療や身体調整を行う。
・神経生理学の応用であることが重要であり、auricular point を用いて治療するときに は中枢神経系の代表点を治療( 刺激) していると考える。
・中枢神経系を介した身体的組織におけるホメオスタシスの代表点を治療することが不 可欠。
・臨床的アプローチとしては触診などによる耳介部の検査を含む身体的、神経学的検査 を行う。
・ポイントの探索は圧痛や電気的器具を使用。
・治療は標準的な鍼、寒冷刺激、電気刺激などによって行われる。
・神経学的適応として、疼痛症候群、頭痛、味覚障害、嗅覚障害、不眠、うつ、脳血管障害、 末梢神経障害などがある。
・科学的研究が進められており、現在では現代医学の領域に入ってきている。
・臨床試験や神経生理学的研究、ニューロイメージングなどに基づいた現代神経科学に よってその有効性が証明されてきており、耳介療法の神経生理学的基礎が現在、確立さ れてきている。
2. 耳介の神経支配(Dr.Nogier による)
迷走神経:内臓・消化器系 三叉神経:筋・骨格 頚部神経叢:皮膚・神経系
3. 耳介ポイント
・対応する臓器や身体の部位に障害がある時に押圧すると痛みがある。
・脊髄視床路と網様体によって身体のさまざまな部位とリンクしている。末梢の部位 が障 害を受けると対応する耳介ポイントが敏感になる。→圧痛が出現
ポイント探索に必要な器具
① 圧診器具…てい針、外科ゾンデなど
② 電気的治療点探索器具
ココロケータ( セイリン( 株) 製)、アジスコープDT(sedatelec 社製) など
ポイントの見つけ方
① 圧痛による探索
② 電気的探索法:皮膚の電気抵抗の低い点を測定する。
4. 耳針療法の適応症
・疼痛:代謝性、神経性、外傷性
・機能障害:頻脈、便秘、過敏性腸症候群、慢性疲労、月経の問題
・依存障害:煙草依存、ベンゾジアゼピン( 精神安定剤) 使用、抗うつ剤の使用
・精神障害:うつ病、不安神経症
・皮膚疾患:湿疹、乾癬、脱毛症
・その他:アレルギー、自律神経障害により引き起こされる疾患、大脳片側機能障害、 肥満、 平衡障害、耳鳴、突発性難聴、不眠症、頭痛 など
※禁忌:妊娠
5. 耳針治療に必要な器具
耳介模型、圧診器具、ピン セット、ハサミ
パイオネックス焼灼法( ライ ターとクリップ) など
6. 耳針治療の流れ
① 問診
② 一般的な身体診察: 触診、腹診、整形外科的徒手 検査、神経学的検査など
③ 触診による耳介部の 検査
④ 圧痛または電気的探 索器によりポイント探索
⑤ 耳介ポイントに刺針
7. 実技
患者モデル:男性
主訴:両側の肩関節周囲炎 ( 五十肩)…1 年前発症、疼痛 継続、可動域制限あり
耳針治療の流れに沿って実施
神経学的検査では、[ 両脚直 立検査( 開脚にて)][ 単脚直立検査][衝動性眼球運動][追従性眼球運動][回内回外運 動検査]を実施
※『神経学的検査を行って中枢神経系や末梢神経系のどこにどのような機能的な問題が あるかを診断して治療をするのが神経学的アプローチである。 ただ単に、こういう症状、疾患にはこのポイントという短絡的な治療の仕方ではない。』
→原先生の所見:右側前頭葉の機能低下の疑い
治療:仰臥位( 側臥位などで耳を圧迫すると状態が変化してしまうので注意) にて頭部 を傾けて
[1] 右耳を処置
耳介ポイント探索【バネ式てい針(250g の一定圧)、アジスコープDT 使用】
神門、肘、ゼロポイント、眼球運動のポイント部…反応なし
肩、視床のポイント部…反応あり
刺針:使用するディスポ針 セイリン製D-type No.3
肩、視床のポイントに斜刺
[2] 左耳
耳介ポイント探索して刺針
神門、視床、ゼロポイント…反応なし 眼球運動のポイント部…微弱な反応
目、肩、首のポイント部…反応あり → 斜刺
置針したまま、起き上がっていただき肩関節の状態チェック
治療直後の検査では急激な改善はみられなかったものの、患者モデルの後述によります と当日、時間の経過とともに両肩関節の疼痛軽減、可動域の拡大がみられ、耳針治療の 効果が得られたそうです。
ノジェ博士は『医師以外の治療家が耳介療法を習得するには相当の努力をしなければ ならない』と語られており、耳介療法の難度の高さを示されています。
原先生は耳介療法の実践は神経学的な知識が必要不可欠であると仰り、医療として疼痛 疾患を含む各種疾患や依存症の治療に適用し発展してきた耳介療法の耳針を神経学的ア プローチによって実践されています。針( 鍼) 治療における可能性の広がりを感じ、耳 介療法の耳針治療に魅了された有意義な時間でした。
(研修委員 田口 まゆみ)
②「ほんとは凄い!学校で習う管鍼法、使っていますか管鍼」
~臨床に活かす杉山真伝流の鍼術「管術の妙」~(実技供覧)
講師:尾河 由清 先生(大阪医専 専任教員)
杉山和一検校が確立した杉山流は、「管針法」として現在に受け継がれています。鍼 灸の養成学校では、国家試験のために術式名だけで本来の術式の目的や技術が伝えてら れていない。特に鍼管を使った管術は、効果が高い術式が十分に伝えられていない現状 です。基本17手技の中から最もベーシックな5 つ管術の目的や方法と効果を参加者も 実技体験しながらの講習会でした。
日本の鍼術 鍼術とは
・一定の方法に従い、鍼をもって身体表面の一定部位に、接触または穿刺刺入する。
・刺入した鍼により、生体に一定の機械的刺激を与える。
・その刺激により起こる効果的な生体反応を利用し、生活機能の変調を矯正する。
・保健および疾病の予防または治療に広く応用する施術。
・方法には「管鍼法」「撚鍼法」「打針法」がある。
*「鍼管」は、切皮時の痛みを軽減させる以外の利点。
①刺激の道具となる。
②弾入動作を行う時の「軸」を捉えるガイドになる。
管鍼法の説明
①鍼管の長さ
鍼を挿管した時に、鍼柄が鍼管より約4㎜出るように作られている。これは、経脈の深 さにより決められていると考えられる。「黄帝内経霊枢」では、経脈の深さは、手の陰 陽経は全てが2分、足は肝経が骨の上を走行するために1分でしかなく、他の経脈は全 てが2分以上の深さとなる。1分を2㎜強としているため、鍼管に入った鍼を4㎜刺入 しても、肝経以外の経絡では、経脈の手前で鍼尖が止まることになる。したがって、抜 管した後、気をうかがいながらの鍼の操作が可能となる。
②管鍼法(管鍼術)は日本の鍼術の特徴を組み合わせた術式
管鍼法は、従来の捻りを基本とした「撚鍼法」と、日本独自の振動を利用した「打針法」 を組み合わせて、より効果的に生体反応を引き起こす鍼術として、構築された方法と考 えられる。
撚鍼法(捻り・抜き差し)+打針法(振動)⇒管鍼法〔杉山流〕(鍼:捻り・抜き刺し)(管: 振動)
「管鍼法」の17手技において、管術は細指術を含め5つ。
①管散術:表証の邪を散じる。
②副刺激術:気の滞りや硬結を説く。催気・行気・散気。
③示指打法:邪気を散じる。
④細指術:表症の邪気をとる。
⑤内調術:気血や流れを調える。(天:腠理、人:血脈、地:骨筋) 「運鍼」の振り返り(運鍼と基本目的)
鍼術に重要な事項
1)身体軸 2)押手圧
鍼の動きと、その目的
1)刺鍼・刺入時(運動の基本)①回転:捻り ②上下:抜き刺し
2)刺入後の刺激(運鍼の目的)
①身体を回転させる・・・気を集める(得気)
②身体を上下に動かす・・滞りを解く、硬結をとる
③鍼体を揺らす・・・・・気をめぐらせる(行気)
3)「管術」の刺激(目的)
④鍼管を叩く(刺入部位を振動させる)・・・・気を散らす。気を調える。
⑤鍼管で叩く(刺入部位周辺を振動させる)・・気を散らす。気を調える。
⑥鍼管で圧す(刺入部位に圧をかける)・・・・滞りを解く、硬結をとる。
術式の手順
1)管散術 手技:鍼を使用せず、刺激部位に鍼管を立てて、鍼管の上端を弾入の容量で、刺手の示 指で数回叩打する方法。(教科書)
(杉山流:記載なし)
2)副刺激術
手技:刺入した鍼の周 囲を鍼管または指頭で 叩き、あるいはこする 方法で、響きを与える など強い刺激を当てる 手技。(教科書)
杉山流:こう管
目的:滞りを解く術式 (催気・行気・散気)
杉山流:気拍術(気拍 術)
目的:気を得るための 術式(催気・行気・散気)
*「鍼管で叩く」ので はなく「鍼管を立てて、 鍼管を叩く」術式
3)示指打法
手技:鍼を一定の深さ に刺入し、その鍼に再 び鍼管かぶせ弾入のよ うに鍼管の上端を叩く 方法。(教科書)
杉山流:暁鍼術(あか つきのはりじゅつ)
目的:邪気を散じる術 式(散気)
4)細指術
手技:刺鍼しようとす る皮膚部位に対し、弾 入・切皮のみを繰り返 し行う方法。(教科書)
杉山流:細指術(さいしじゅつ)
目的:腠理(そうり)にある邪気(風寒暑湿の気)を散じる術式(散気)
杉山流:糠鍼(ぬかばり)
目的:腠理(そうり)にある邪気や滞りを散じる術式(散気)
5)内調術
手技:目的の深さまで刺入した鍼の鍼柄を押手で摘み、刺手に鍼管を持って鍼柄を叩打 し、振動を与える手技。(教科書)
杉山流:内調術(だいちょうじゅつ)
目的:腠理(そうり)、血脈、骨筋を調和する術式。(血気を調える)
*応用:抜鍼時、鍼を腠理まで引き上げ内調術を行い抜鍼することで、気血が調う。
杉山流:通谷管(つうこくかん)
目的:穀気を通じさせる(深部の気血(営気)をめぐらせる)。
*「内調術(内調管)」は、浅部より深部に段階的に刺入し鍼管で叩き、体内の気を調える。 「通谷管」は、先に深部に鍼を刺入し鍼管で叩き、 穀気を通じさせる。
上記の内容で、ペアを組んで実技を行われました。
百読は、一見にしかずと、ちょっと違いますが、皆さんも研修会による実技の際には 参加されてみてはどうでしょうか。
(研修委員 松岡輝人)