研修会&講座のお知らせ
令和4年度第2回(7月度)学術講習会報告
【日時】令和4年7月10日(日) 13:30~16:45 学術講習会(オンライン開催)
・学術講習会(オンライン開催)
①「発達障害を理解しよう」
講師:中村 元昭 先生(昭和大学発達障害医療研究所 副所長)
②「K式鍼灸スコアの使い方」(実技供覧)
講師:石井 弦 先生(はりとお灸 日月堂 院長)
講演①「発達障害を理解しよう」
講師:昭和大学発達障害研究所副所長 中村 元昭 先生
今年度2回目の学術講習会は、精神疾患の中でも特に「発達障害」をテーマにオンラインで開催いたしました。
講師の中村先生は、精神科医でありながら鍼灸の臨床研究にも取り組まれ、全日本鍼灸学会でも数多くのご講演をされております。
鍼灸臨床の中で、発達障害に対しては、まだまだ未知の分野でもあります。その中でも今後我々鍼灸師が関わっていくべき領域の一つとして、発達障害の基礎知識を学びました。
まず、精神医学の中で疾患をどのように診断するのかとういう総論ですが、精神医学が始まった当初は、記述的モデル(現象学に基づいた臨床診断)に基づき、次にカテゴリーモデル(操作的カテゴリー診断)、さらに遺伝学の発展に伴い、スペクトラムモデル(スペクトラム診断)という考え方が出てきました。このスペクトラムモデルは多因子疾患とも言われ、生活習慣病の多くはこのモデルで説明できると考えられています。発症傾向(病気のなりやすさ)は、複数の遺伝的因子と複数の環境因子の相互作用によって決まります。
今回は、発達障害の中でも自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)を中心にお話頂きました。
①自閉症スペクトラム症(ASD)
日本でも増加傾向ではありますが、米国では、1975 年には5,000 人に1 人という稀な小児の病気という認識でしたが、現在44 人に1 人と、およそ半世紀で有病率が100 倍になっています。この理由としは、疾患の概念拡大や生活習慣(食習慣)の変化による腸脳相関と発達障害との関連が原因ではないかと言われています。
大きな特徴として、社会コミュニケーションの問題とこだわりの強さと感覚への特異な反応があります。
主な特徴は以下の通りです。
・言葉を相互的にやり取りしたり、関心や気持ちを共有することが難しい
・非言語による相互的なやり取りが難しい
・ごっこ遊びや見立て遊びができない
・同一の行動を繰り返す
・変化を嫌う
・特定のものに強い関心を示したり、特定の感覚に過敏(鈍感)で、その感覚にこだわる
②注意欠如・多動症(ADHD・ADD)
大きな特徴として、不注意・衝動性・多動性があります。
主な特徴は以下の通りです。
・気が散りやすい、興味のないことや意欲のわかないことには注意が持続しない(不注意)
・待つことや我慢することが苦手(衝動性)
・落ち着きがなくじっとしてられない(多動性)
一言でASD・ADHD と言っても色々な多様性があり、一人の個人の中でスペクトラムが重複していることがよくあります。ASD とADHD、ASD とID(知的障害)、ASD とDCD(発達性協調運動症)の組み合わせも多く見られます。これが発達障害の多様性(多次元スペクトラム)となり、より個々の障害の現実を見極めることが、支援にとって非常に重要となります。
発達障害を抱えている人たちは多様な二次障害として、様々なDisability(生きづらさ)を持っており、感覚・知覚(感覚過敏・鈍麻、内臓感覚)、注意(トップダウン注意、ボトムアップ注意)、認知(認知の凹凸、社会的情報の不足)、身体(協調運動障害、反復的行動、自律神経失調、慢性疲労・疼痛)、感情(不安、抑うつ、フラッシュバック、怒り)と多岐にわたっています。
中村先生は、この二次障害で特に、感覚・知覚・身体・感情というところに鍼灸が有効なのではないかと期待を寄せられておりました。
講演最後に、「発達障害に対する鍼灸治療の可能性」として各講師と参加者代表(東京有明医療大学 松浦先生、森ノ宮医療大学 尾崎先生)に提言を頂きました。
(中村先生)特に成人期以降での、不安・抑うつ・睡眠障害・感覚過敏・フラッシュバック・自律神経失調といったところに鍼灸の手が届くことをクリアに発信して頂きたい。
(石井先生)発達障害の方たちをバックアップする人たちのバックアップも必要なのではないか。
(松浦先生)エビデンス的に、ここ5・6 年で発達障害(小児期)に対する研究も進んでおり、鍼の機序からすると脳過敏の抑制に期待できるのではないかという側面からエビデンスも徐々に増えてきている
(尾崎先生)発達障害の子どもや母親に対して両面から鍼灸のアプローチをしていくべきであり、大学でも今後、小児はりを中心とした臨床研究を進め、ぜひ開業鍼灸師との連携も含めていきたい。
以上、今回は「発達障害」にフォーカスを当て、まずは基礎知識を学び、その中で鍼灸がどのような役割を果たせるかというところまでディスカッションでき、非常に有意義な講習会となりました。
(研修委員長 荒木善行)
講演②「K 式鍼灸スコアの使い方」(実技供覧)
講師:はりとお灸日月堂 院長 石井 弦 先生
6月40度を超えたのは観測史上初めてと言われる日本、そんな最中、第2回の講習会は143名を超える受講者が集まり、オンライン開催初めてとなるZoomプラン参加者枠を増員する運びとなりました。参加者には鍼灸師以外に一般の参加者もいたとお聞きしています。それだけ、今回のテーマに興味を持っておられるのだと、つくづく感心させられました。
第2講義では「K 式鍼灸スコアの使い方」というテーマで石井弦先生に、精神疾患、おもにうつ病にたいする鍼灸治療を、触診で体壁の反応を診て、腹診による圧痛を確認しながら、数値化したスコアをつけていき、治療後にどう変化したか実技を交えご講演していただきました。
私と石井弦先生との出会いは、お互い「長野式・キイコスタイル」という治療法を学び、長野式研究会&w -key net 代表の村上裕彦先生、松本岐子先生を師事して今に至ります。
長 野式は、長野潔先生が『素問』『霊枢』『難経』『脈経』『傷寒論』など多くの古典文献を学び、また病院勤務で得られた西洋医学の知識や経験と、長年の豊富な臨床経験をもとに体系化 されたものです。松本岐子先生は長野潔先生のもとで学び、長野先生の脈診を、腹部の反応ゾーンと関連づけていき、脈が変化した時、腹部の圧痛や感覚が同様に変化することを突き止め「キイコスタイル」として確立されました。中村元昭先生の講義での話にもあったように、中村先生がボストンで腰を痛めたときに、 松本岐子先生の治療を受け、鍼灸の凄と松本先生に感銘を受け、K 式鍼灸スコアが生まれたと言っても過言ではないでしょう。
当時、中村先生が主任を務めた神奈川県立精神医療センターで、うつ病の研究の中で鍼灸対象となる患者様を対象に、K 式鍼灸スコアを用いて長野式・キイコスタイルによる鍼灸治療を施しておりました。
さて、今回の講義内容は、
・K 式鍼灸スコアで使用される身体各部の圧痛所見の意味、また対応する治療点
・K 式鍼灸スコアを用いた治療手順と施術前後におけるスコアの変動と評価を中心に押圧や刺鍼に関する内容で、ご教授していただきました。
一部をご紹介すると、頭部瘀血スコアとして百会の圧痛の測定を、「感じない、気持ち良い」を0として、「痛いと言うまで間がある」を 1、「反射的に痛いと言う」を 2、「反射的に 回避的な動作や声を発する、強く痛みを訴える」を3としてポイント化していく。また手の甲で熱感を測定し、0: 感じない。1: 被験者の頭部において他部位との比較で局所の熱感を感じる。2: 熱として明確に感じる。被験者も熱を訴える。といったように様々な角度で反応を取っていく。
ここですべてのK 式鍼灸スコアを紹介したいところだが、そこは忙しい最中、受講していただけた先生方の特典としたい。研修会委員として、特に会員に訴えたいのは、このような研修会が毎回 1,000 円で受講できるのは会費を払っていただけている会員の特典かと思います。そして、会費を払ったとして当日参加出来なくとも、アーカイブ動画を見ることができます。しかし、後日アーカイブ動画だけ見たいというご希望には添えませんので、申し込み締め切りまでにお手続き済ましていただきたいです。
まだ2回終わったところです。第3回以降も内容の濃いテーマとなっておりますので、これからも研修会をお見逃しのないよう、よろしくお願いします。
(青年委員長 研修会副委員長 清藤直人)