研修会&講座のお知らせ
令和3年度第5回(2月度)学術講習会報告
講演①「眼科専門漢方医が教える眼科疾患~白内障・緑内障の東洋医学的治療~」講師:山本眼科医院 院長 山本 昇伯先生
日時: 令和4年2月13日(日)
会場: 大阪府鍼灸師会館
漢方医になるきっかけは、父が漢方医で鍼灸治療もしていました。その流れで父に幼少の頃から家族の間で漢方と鍼の実験をされました。眼科治療にあたって、近年、内眼手術の安全性は飛躍的に向上し、患者の満足度も高い。しかし、局所麻酔下での施術であることや、感覚器であるとの特徴から、医師側からは成功した手術であっても、術後の不定愁訴が遷延する症例は一定の割合が存在する。術後の不定愁訴に対して漢方治療と心理療法が有効な症例あった。
眼の愁訴で急を要する疾患
◎急性緑内障発作→結膜充血、眼痛、嘔吐
◎網膜動脈閉塞症→急な視力低下 早ければ早いほど予後がよい。
◎急な眼瞼歌詞、複視→動眼神経麻痺
◎裂孔原性網膜剥離→急な飛蚊症、視野欠損
◎裂孔原性眼外傷
◎感染性角膜炎、眼内炎、→充血、視力低下、既往
◎流行性角結膜炎→充血、眼脂、病歴
東洋医学を利用すべき疾患として
◎再発性疾患- 麦粒腫、強膜炎、糸状角膜炎、ぶどう膜炎など
◎確実な治療がない疾患- 緑内障、網膜色素変性症、円錐角膜など
◎ステロイドを使用せざるをえない疾患- ぶどう膜炎、視神経炎、春季カタルなど
◎原因が明確でない疾患- 眼精疲労、眼窩神経痛、顔面神経麻痺など
◎未病の状態- 高度近視、仮性近視(調節緊張)など
◎心療眼科領域- 漢方治療の方が有効である割合は3割である。
網膜動脈閉塞症は、発症後2日以内の症例では積極的な治療を試みる。塞栓や炎症に起因する予後不良の疾患であり、現在のところ有効な治療法は明らかにされていない。西洋医学的に有効な治療法がないことを患者さんに説明し、同意を得たうえでクルミによる隔物灸(以下クルミ灸)を行った。
クルミ灸とは、半分に分割したクルミの殻を菊花液(洗肝明目湯の煎じ液)10分間浸透し、手作りのメガネフレームに取り付けることでおよそ1 グラムの艾で施灸する。
実際の施術は、被験者が不快な熱さを感じるまで繰り返し行う。クルミの殻中の温度は40~45℃に上昇していた。角膜表面温度は、34℃から35℃に上昇していた。
結膜炎、麦粒腫、近視、遠視、網膜炎、球後視神経炎、視神経萎縮に用いられる。
クルミ灸とバイアスピリンを併用して4ヶ月弱で、視力0.9 から1.5 に改善がみられた。
吸玉療法は、糖尿病網膜症、網膜動脈閉塞症、加齢性黄変成、中心性網脈絡膜症、硝子体出血に。緑内障、眼精疲労。
刺絡や吸角療法で、麦粒腫の治療。
大椎、肩井、膏肓など実証の人に施術する。虚証の人にもやり方次第で行う。
手根鍼(腕踝鍼)で両眼球後視神経炎に、初診時に手根鍼と耳鍼を行ったところ、1時間後にはRV(0.8)LV(0.9) に回復した。治療前RV(0.3)LV(0.4)。
苓桂朮甘湯、桂枝茯苓丸加大黄を処方。2ヶ月後には、正常になり、視野欠損も消失した。
電気温鍼で、眼精疲労において
・冷えに対する検査、兼治療 ・先天の気、腎兪、志室・後天の気、胃兪、脾兪に置鍼
眼疼痛に対する鍼灸治療
・末梢痛:攅竹(眼輪筋、滑車上神経)、陽白(前頭筋、眼窩上神経)、瞳子膠(眼輪筋)承泣(眼輪筋、顎神経)、太陽(側頭筋)
・中枢痛:懸顱、頷厭、頬車、下関など
・混合痛:心身的アプローチも
白内障
核白内障というのがあり、Emery-Little 分類で進行の具合を診断する。
白内障の漢方治療は、八味丸、牛車腎気丸、加味逍遥散で症状が改善した。白内障が治ったのではなく、視力が回復したという報告です。
緑内障は、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的異常を特徴とする疾患である。
OCPという装置で、視野欠損部分を見つけることができる。
標準的治療は、眼圧のコントロールになる。
視野障害の状態が、薬を使わない状態で70パーセントまでに落ち着かせる。20だった人を14にする。緑内障は点眼薬治療し、良くならないものは手術に移行する。
急性緑内障発作は、何らかの原因で急激に眼圧が上がり、強い充血、角膜浮腫、散瞳、頭痛、嘔吐、視力障害おこる。救急車で搬送される状態で、至急レーザー虹彩切開術、白内障の手術を行う。緑内障では、無呼吸症候群(以下SAS)が睡眠中の血中濃度が低下することによって悪影響を及ぼす。
・眼圧非依存性因子の中で眼循環や酸化ストレスが深く関与する。
・SAS による酸化ストレスは炎症、交感神経亢進、内皮障害など様々関与する。
・CPAP 治療は眼圧に影響せず、視野進行が緩徐になる。
・点眼治療に加え、適切なSAS 治療で緑内障の進行を抑えることが可能になる。
緑内障の病型別治療
・前視野緑内障(PREPERIMETRIC GLAUCOMA)
眼底検査において緑内障性視神経炎乳糖所見や網膜神経繊維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも通常の自動性的視野検査で視野欠損を認めない状態をいう。
この状態には緑内障の前駆状態もしくは緑内障に類似した所見を示している正常眼もしくは他の疾患の一部が含まれると考えられ、原則的は無治療で慎重に経過観察する。しかしながら、高眼圧や、強度近視、緑内障や、より早期の緑内障異常が検出できる可能性があるとされるその他の視野検査や眼底三次元画像解析により異常が検出される場合には、必要最低限の治療を開始することを考慮する。
眼科的鍼灸治療
短期的:血管抵抗(特に短後毛様体動脈:脈絡膜)の低下、乳頭部の血流増加
中期的:眼圧低下
長期的:視野狭窄の進行抑制?、今後の研究に期待!
(研修委員 松岡 輝人)
講演②「眼科領域における山元式新頭鍼療法YNSAの臨床」
講師:康祐堂あけぼの鍼灸院 院長 冨田 祥史 先生
日時: 令和4年2月13日(日)
会場: 大阪府鍼灸師会館
今年度最後の学術講習会、YNSA冨田先生の講義は鍼灸師、鍼灸学生なら誰もが聞きたいと思う内容だったのではないでしょうか?
私自身も一度はお会いしてお話しを聴きたいと思っていた、先生だったので心昂る内容でした。今回の内容は「眼科領域における山元式新頭鍼療法YNSAの臨床」ということで、YNSA学会の中でもなかなかないテーマ、さらに実技の実演までしていただき何ともお得なセミナーでした。
講義内容
YNSAの治療例を見せていただく所から、講習が始まりました。脳梗塞より1 年半経過、片麻痺により歩行困難などの症状、慢性期維持期となる患者さんへ、2ヶ月の治療後自分で立ち、歩くまでに回復した症例を見せていただきました。ADL がプラトー( 維持期) に達するのは、軽度脳卒中で8.5 週以内(80%は3週以内)、中等度脳卒中で13 週以内(80%は7 週以内)、重度脳卒中で17 週以内(80%は11.5 週以内) と言われている。回復の限界は上肢で最大2ヶ月、下肢で3 ヶ月と言われている。今回見せていただいた症例はこれに当該しない物ばかりであり慢性期脳疾患に対してのYNSA治療の効果に目を輝かせる物ばかりだった。もちろん急性期の物に対しても顕著な効果が見られた。患者さん自身の健康寿命の延長に繋がるこの結果にYNSAの凄さ、また鍼灸治療自体の可能性の広がりを感じました。
YNSAとは?宮崎県の山元敏勝医師が開発した鍼治療。脳神経性疾患、片麻痺、整形外科疾患、痛みなどの疾患に優れた効果がある。脳血流を改善する効果が認められ、最先端の研究がドイツ、アメリカ、ハンガリー、エジプトで行われている。YNSAの特徴は、① YNSAは脳神経疾患だけでなく、各種整形外科疾患、難治性疼痛疾患や不眠、うつ病や精神病、自律神経 失調症、めまい、耳鳴り、難聴にも有効。②経絡的( 経筋的) な治療を頭部の特定のポイントを使って治療することが出来る。③座位、仰臥位など体位を問わず治療できる、山元式の頸診、腹診、上腕診は体鍼にも応用可能です。④診断点の圧痛等の所見が治療ポイントに正確に刺針すると即時に消失する。圧痛等の所見が消失していれば治療は成功。⑤治療できるようになるまで長年の経験を必要としない。パイオネックスや火針、局所注射、レーザーでも有効。世界各国のドクターからも支持を集め、西洋医学だけでは取れない痛みを取るなど、健康寿命の延長を目指す治療である。
世界の頭皮鍼とYNSAの広がりということで頭皮鍼やYNSAに関する論文の紹介をしていただきました。精神疾患に対しての治療や、急性脳梗塞その他様々な疾患に対しての研究がなされ、エビデンスに基づいた論文発表されています。世界的に見てもドイツではYNSAの保険診療可能や医学生が学ぶ鍼灸治療にYNSAが入っているとのこと。アメリカでもハーバード大学で講演が実施され、鍼灸学校では頭皮鍼が必修である。オーストラリア、イタリア、ハンガリーなどでも各方面で取り入れられ、ブラジルに関しては元大統領がYNSAに救われたこともあり、医療保険に組み入れられている。このように世界で普及し、YNSAを行う医師は10万人を超え、山元先生は世界中から指導要請が来るそうで、世界中に広がっている。
日本でのYNSAの普及は現在の統合医療を認めない風潮とから全く普及していない。医師会の反発も強く医師も無関心なのが現状だが少しずつ関心を持つ医師も出てきた。日本から世界に評価されている鍼灸治療があることを嬉しく思う一方、日本での現状に一鍼灸師として地位の確立を目指していかないといけないと感じました。
YNSAの魅力
・診断ツールがしっかりしていること。①左右の診断→合谷診、首診(腎点) ②部位診断(基礎) →自律神経、脳を整える上腕診③部位診断( 応用) →臓器決定のための首診・ツボが少ない。→運動器疾患点9、感覚点12、脳点3、脳神経点12、合わせて40穴
・ツボの効能が分かり易い
・ツボの発見しやすい
・基本的に誰が行っても同じ治療
眼科領域の鍼灸治療に関しても論文を元に緑内障や白内障、など様々な眼疾患に対して有効ということを示していただきました。眼振にも効果を示すとのことで研究こそ少ないが、胸鎖乳突筋を治療することが効果を示す。
YNSAの眼疾患臨床
触診→選穴→刺鍼→触診→確認の流れで治療する。触診では合谷診( 圧痛の左右差) により治療側を決定。上腕診( 肘窩横紋状で尺沢と曲池の間が頸椎、尺沢と曲沢の間が胸椎、少海の位置が腰椎、上腕二頭筋上橈側から小脳、間脳、大脳) で治療点の決定。反応、圧痛が無ければ刺さないのが前提である。眼科疾患に使う治療点としては前額にある眼点に加え、追加脳点、脳幹点( 神庭) を使うことが多い。また、応用で首の胸鎖入突筋付近の圧痛を診る首診により、臓腑の治療点の決定をする。眼疾患に関しては脳神経とも関係があるため関係するポイントを追加する。脳神経は各臓腑に対応しているとのことで、これも踏まえなくてはいけない。これを元に症例紹介もしていただきました。
実技では実際に診断から治療まで流れを見せていただきました。被験者の方の最初の診断時の圧痛点がみるみる内に取れていきます。実際の被験者の方に聞いても「これはすごい!目が明るくなった。」とのこと。実際被験者の方は老眼で眼鏡なしには小さな字は見にくいらしいが、治療後はすごく見えやすいと喜んでおられました。
今回の講習会内容が盛り沢山で最初から最後まで目が離せない内容でした。多くの先生がYNSAに魅力を感じたのではないでしょか?
冨田先生のご講演を間近で受講出来たこと大変嬉しく思います。貴重なお話し本当にありがとうございました。
(研修委員 岩津 優希)