素問・霊枢報告
報告霊枢勉強会報告 令和四年二月
講師: 日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生日時: 令和4年2月13日(日) 第11回
会場: 大阪府鍼灸師会館 3階 出席者: 会員27名(うちWeb18名) 一般18名(うちWeb9名) 学生23名(うちWeb21名)
*2月度は会場20名、ネット配信での受講が48名でした。
『黄帝内經靈樞』邪氣藏府病形(じゃきぞうふびょうけい)第四 ・ 第二十章
(解説)
○01 膽病者。
02 善太息。
03 口苦嘔宿汁。
04 心下澹澹。
05 恐人將捕之。
06 嗌中吤吤然數唾。
07 在足少陽之本末。
08 亦視其脈之陷下者灸之。
09 其寒熱者。
10 取陽陵泉。
【01 膽の病は、 02 善大息し、 03 口苦くして宿汁を嘔き、
04 心下澹澹として、 05 人の將に之を捕えんとすることを恐れ、 06 嗌中は吤吤然として數々唾す。
07 足の少陽の本末に在り。
08 亦た其の脈の陷下する者を視て之に灸す。
09 其の寒熱する者は、 10 陽陵泉を取る。】
(解説)
○ 02 善く大息し :
*「大息」はためいきのこと。ここでは長いためいきをつくのだと言っている。しかし私たち鍼灸を行うものがよく知る「大息」は『素問』「平人氣象論十八」に出て来るものである。ここに言う「太息」は一呼吸に脈が五度うつものを言う。「大息」を今回調べてわかったが『素問』「平人氣象論十八」の解釈は変えないといけないかもしれない。この篇でいう「大息」は「大」あるいは「太」いずれの字が使われていようとも、長い呼吸で、ためいきをつくことと解して良い。中国の注解者は蔵證で解釈しているが、私はこの部分に関しては慎重であるべきだと思っている
○ 03 口苦くして宿汁を嘔き :
*「口は苦い」というのはもちろん現在の、口が苦いという表現と同じ意味である。「宿汁」というのは滞留しているものを吐くということである。
○ 04 心下澹澹として :
*「心下」は「しんげ」と読んでもまちがいでは無い。「澹澹」とは拍動するということであり、みぞおち(みずおち)に動悸がする。「澹」と「憺」は同じ意味である。拍動するという意味である。
○ 05 人の將に之を捕えんとすることを恐れ :
*逮捕されるのではないかと恐れをなすという意味である。後の時代になると、この病態を心と肝の関係として解釈していくのだろうが、ここではそのまま受け取ったほうが良い。
○ 06 嗌中は吤吤然として數々唾す :
*「嗌」は、のどである。「吤吤」は、のどの中にモノが詰まる、いがらっぽくなっていて、のどが鳴る状態である。モノを出すことも入れることも出来ないでのどが詰まったような状態であると言っている。
○ 07 足の少陽の本末に在あり :
*「本末」は「本」と「末」である。「本」は府のこと、「末」は経脈のことである。これを治療する場所は、足の少陽の、一つは府につながる場所、もう一つは経脈につながる場所である。
○ 08 ruby>亦た其の脈の陷下する者を視て之に灸す :
*灸というのは陥下するところにするとは、本書「經脈第十」の篇にも書いてある。なぜ陥下するのかというと、陽の気が少ないからだと、そのような考え方から来ている。陽の気が少ないとしぼむという考え方がある。陽の気、活動している気が少なくなる、または気が虚した時、皮膚が陥下するのだという考えにもとづく。その場所に灸をして陽の気あるいは気を強めてやることをしなさい、と言っている。
○09 其の寒熱する者は、 10 陽陵泉を取る:
*寒熱をしているというのは府に関することである。経脈のレベルではない。そこで府を治療しなさいと言っている。そこで府に関する、少陽の合穴である陽陵泉を取るのだと言う。
○六府の「合」について
**配布資料38 ページの表〈六府の「合」とその病證一覧〉より六府とそれぞれの合の穴名(つぼの名前)をここに抜粋しておきます。
胃/ 三里、 大腸/ 巨虚上廉、 小腸/巨虚下廉、 三焦/ 委陽、 膀胱/ 委中、 膽/ 陽陵泉
**『新版 経絡経穴概論 拡大版』,日本理療科教員連盟/ 社団法人東洋療法学校協会編、( 株) 医道の日本社発行,2009年4 月第1版、23ージも抜粋しておきます。
・下合穴
六腑の病の際に反応が表れやすく治療に応用される穴で,すべて下肢にある。
胆の合/ 陽陵泉、 小腸の合/ 下巨虚、 胃の合/ 足三里、 大腸の合/ 上巨虚、 膀胱の合/ 委中、 三焦の合/ 委陽
○『靈樞』邪氣藏府病形第四の内容の概括
*この篇での診察はこのようなものだ。
五蔵は脈状によってどの蔵が病なのかを判定する。そのために五蔵それぞれの平脈を決めてある。次に五蔵の典型的な病の状態を述べている。さらにその脈状の緩急・小大・滑かつしょく濇の微甚によって脈みゃくしょう證と治法を定めるというふうにしている。ただ五蔵の病というものは、この状態というものがあくまでも順の状態であり、ここに提示される五蔵の病型というもののねじれがあるという事は暗黙の前提にある。ここで示された病型が出現することは、それに対応した蔵が病んだ証拠だと考えて良いけれど、これがねじれるということも、もちろんある。
*六府というものは、その症状によってどの府の病なのかを判定する。ただし六府と経脈は一体化しているので、六府の病だと判定すれば「合ごう」で治療する。経脈だと判定すれば「滎けいゆ腧」で治療する。
【さらに勉強したい方のために】
京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
(https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp)
渋江抽斎 ⇒ 検索 黄帝内経霊枢24巻首1 巻で『靈樞講義』のマイクロフィルム画像を見ることが出来ます。
**Fresh2022年2月号『霊枢勉強会十二月』の文章で「虚邪賊風」のことを「虚邪六風」と聴き間違えて書いておりました。ごめんなさい。「虚邪賊風」が正しいです。(松本)
*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜、午前10時から12時まで大阪府鍼灸師会館3階です。COVID-19感染予防対策の下、勉強会のご案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。次回は2022年4月10日(日)です。お楽しみに。
(霊枢のテキストは現在5冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)
素問勉強会世話人 東大阪地域
松本政己