公益社団法人 大阪府鍼灸師会

【報告】令和6年度5月度学術講習会NEW

令和6年度5月度学術講習会開催にあたり


 今年の第1回研修事業がスタートしました。何よりも本会が初めての試みと言える、大阪府鍼灸師会の研修会と関西医療学園専門学校校友会の東洋医療部会との、合同学術研修会として開催することができました。この構想に至ったのは昨年の10月、学校で行われている講習会と本会の研修事業がコラボすれば、学生にも周知できるのではないか。そして何より広い会場が確保できるということが大きなメリットと考えました。
 大阪府鍼灸師会館のキャパは30名弱のため、参加費無料の学生にはWEB受講でしか参加してもらうことができませんでした。「それでは、学生にライブ感を伝えることができない」、その思いから私が卒業した関西医療学園専門学校、そして校友会員でもある自分が話を持ちかけた次第です。
 そして、20年前に臨床実習で教えてもらった恩師でもある川崎勝巳先生の授業が大好きで、私が教員になった時、一緒に授業を持たせてもらい、今ではアスリートをメダリストにするため一緒に活動しています。

 川崎先生の講義で何が好きかというと、全く東洋医学用語が出ないことです。何よりも鍼灸師が習わない生態学を川崎先生はわかりやすく伝えてくれます。「清藤くん、なんで犬はつま先立ちか知ってるか?」「項靭帯があるのは馬と人間だけやで。何でやと思う?」考えたことも無い質問が飛び去り、その理由を聞くと、いかに人間が欠陥であるかがよくわかり、さらに猿から人間になったことにより、ストレスから逃げられなくなった理論を惜しげも無く話してくれました。
 そんな川崎先生なので学生からも人気があり、今回会場には103名、WEB受講45名、合計で148名の参加を得ることができました。音声や映像など見苦しい、聞き苦しい点が反省点ですが、会としては成功したと考えております。今後は、他の学校ともコラボしていきたいと願っております。
 何よりも業界のため、そしてそれにつながる学生のために、鍼灸学校のご協力何卒よろしくお願いします。
 今回ご協力いただけた関西医療学園専門学校校長、武田大輔先生に心からの感謝の意を表します。

(大阪府鍼灸師会研修委員長 清藤直人)

「構造から考察する運動器障害の鍼灸治療」


下肢編~高齢者からトップアスリートまで~      川崎勝巳先生

 構造学とは、「解剖と構造の違いは何なのか?」
 解剖とは、分類学でどこに何があるか?ということ。鍼灸師は解剖しか習わないので、鍼をした時に何があるのか?何にぶちあたるのか?というのが解剖である。
 構造とは、どうしてこういう形にしたのか?神様はどのような目的でこのような形にしたのか?またはどのような目的があり、どう変化したのか?というのが構造である。
 この世界に40年生きてきて、なぜ、普通に生活していいて、膝が変形してくる、肩が上がらなくなる、腰椎椎間板ヘルニアになるのか?が不思議であったそうです。
 「腰痛椎間板ヘルニアになるのはなぜか?」理屈は、二足歩行で立っているからなるという力学的な見方でなく、構造学的には、椎間板は繊維で出来ていて、縦には強く出来ているので、構造上「ねじると弱い」ことから、ヘルニアになる。構造上の問題である利点と弱点を知ることで、治療に役立てることができ、運動器障害を考察されていきます。

 ヒトは進化の過程(魚類→爬虫類→哺乳類→大型霊長類)で、自分の持っているパーツをどう変えたか?
 海から上がった魚が鰭を四肢に変え、頭を上げるために 頸椎をつくり、より早くより遠くに移動するために四肢を延ばし腰椎を作った。そして後肢に把握機能を備えて安全でエサが豊富な樹上に登り、上肢を伸ばして木々にぶら下がり三次元的な移動を可能にした。しかし、サバンナ化により森は減少し、仕方なく地上に 逆戻りし完全な二足歩行となったヒトは自由な上肢を獲得し、長持続的な二足走行を可能にした。
 それは、「持久狩猟」が出来るように進化させていき、ヒトにしかない機能(発汗、項靭帯、鎖骨、アキレス腱、足底腱膜)捨てた機能(把握機能=チンパンジーとの足の違い)についてより詳細に説明されました。

 下肢の進化では、 四足で移動する哺乳類の後肢は、地面を蹴って前進する遠心性の機能を持ち、前肢がその運動による衝撃をしなやかに受け止め、エネルギーを吸収することによって運動をコントロールする求心性の機能を持っています。二足歩行(走行)となったヒトは、移動の衝撃を吸収するサスペンションシステムと方向転換を下肢に委ねました。そのうえ一本足で上体を支える強靭さも求めました。

下肢の構造と役割について
 第一義的には屈曲位から伸展し地面を蹴る。次に着地の衝撃吸収、制動、方向転換、そして上体の支持です。
 ①足部
 役割:蹴りだし、衝撃吸収、制動、持続的走行
 特徴:安定、出力、制動機構を併せ持つ。 三次元アーチによる走行消費エネルギーの節約。踵から内反位で着床し、踵の皮下脂肪で衝撃を吸収。着床前期では踵立方関節と第 4・5中足骨の剛性を高めて床面状況に合わせた形態をとる。その後は外反が始まり、踵が離床すると同時に足指を背屈させ、MP関節を支点に足底腱膜を伸長し、第 1・2・3 中足部に強力なテコを形成し、第1MP 関節底部に強い蹴りだしを出力する。伸長された足底腱膜とアキレス腱を利用して効率の良い持続的走行を可能にする。弱点は内反すること。

 ②膝関節
 役割:地面を蹴りだす遠心性運動と着地の際に衝撃吸収機構として働く。ハムストリングで回旋の抑制をコントロール。
 特徴:他の哺乳類との大きな差はない。即ち、第一義的には屈曲位からの伸展動作が基本で、膝蓋骨が大腿骨を滑り、次に大腿骨が脛骨上を転がりながら滑る。脛骨大腿関節は関節面が不一致で不安定な構造なため、強靭な靭帯と強力な筋群により安定した状態で動く必要がある。外側脛骨大腿関節に回旋機能はあるものの主動作ではない。
 膝関節の構造について関節包が膝上まであり、屈曲するとすごく動くが、動かなくなると、滑液包の動きが悪くなる。靭帯は正しい動きを誘導するもので、靭帯を損傷すると筋力でカバーは出来るが筋力が弱ると正しい動きができなくなる。半月板も同様です。内側側副靭帯・外側側副靭帯・後十字靭帯・前十字靭帯や膝の筋肉についても詳細な解説があり、膝関節は、蹴るだけなので曲げ伸ばしだけで弱点である回旋はしてはいけないことが構造上の問題でわかる。

 ③股関節
 役割:蹴りだし、衝撃吸収、体幹を支える、方向転換。
 特徴:長い下肢を大きく振る。一本足で体幹を支える。 広い可動域。 膝関節同様に屈曲による衝撃吸収と伸展による蹴りだし。回旋による方向転換。この際、足尖と膝は進行方向を向く。 四足で移動する哺乳類の蹴りだしでは股関節は屈曲 90で最大の出力を発揮する。ヒトでも同様で、立位や歩行において股関節は緩んだ肢位。そのため股関節は強靭な 靭帯で安定性を高めている。また、股関節の運動のためだけでなく上体を支えるためにも大きく強靭な筋群が必要。

 構造上の弱点
 ●ニーイントーアウト 『knee-in toe-out』とは片足を一歩前に出し、体重をかけながら膝関節を屈曲していくと膝が内側を向き大腿骨に対して脛骨が外旋する動的アライメントを言う。
 女性が、骨盤が大きいことで、ニーイントーアウトが多いが、最近は男性もある。原因はわからないが、赤ちゃんの時のハイハイやずりばいの機会が少ないのが問題ではないか?と考察されている。
 モビリティ関節(動)である股関節と足関節の間に挟まれたスタビリティ関節(支持)である膝関節は、股関節と足関節を安定させる役割があるため股関節もしくは足関節の可動域が制限されると代償動作として『knee-in toe-out』が生じます。『knee-in toe-out』は強いストレスや反復動作等で膝をはじめ下肢の障害を引き起こす原因となります。
 大腿骨頚体角は四足哺乳類 92°に対しヒトでは 125°が平均とされています。後肢が1本離床しても他の3肢で支えるのに対しヒトは着床下肢1本で支えなければならないため大腿骨をやや内転した状態となります。
 特に女性は骨盤の張り出しが強いためにより内転が強くなり、着床と同時に『knee-in toe-out』を生じやすくな ります。これは加齢とともに抗重力筋の筋力が低下した高齢者にも同じことが言えます。『knee-in toe-out』の原因:股関節外旋制限や足関節背屈 制限が診られるものの、はっきりした原因は現在のところわかっていません。
 Knee-in Toe-outに起因する障害は 外反偏平足になり、舟状骨に体重が乗るから最後は外反母趾になる。ハイヒールを履くからなるのではない。

 『knee-in toe-out』から生じる下肢の障害には以下のものがあります。
 ①足部 ・外反偏平足 ・外反母趾 ・足底腱膜炎 ・外脛骨腫 ・踵脂肪褥炎
 ②下腿部 ・シンスプリント
 ③膝関節部 ・鵞足炎 ・腸脛靭帯炎 ・膝関節筋症候群 ・膝蓋支帯炎 ・タナ障害 ・ジャンパー膝 ・膝蓋靭帯炎
 ④股関節 ・弾発股 ・大腿神経絞扼障害 ・外側大腿皮神経障害
 ⑤外傷 ・前十字靭帯損傷 ・半月板損傷

 症例とともにニーイントーアウトと筋力低下改善のやり方を指導してくださいました。
 ●ニーイントーアウトの改善プログラム ①つま先と膝の方向を合わせた両膝の屈伸 ②壁のコーナーを利用した立方骨荷重の膝屈伸 ③足関節背屈ストレッチ ④インラインウォークの矯正

 ●筋力強化 ①スプリット膝屈伸 ②フォワードランジ ③リバースランジ➡3方向のリバースランジ ④スイング前後・左右

 実技・症例では、足関節の捻挫をした女性が、痛む部位とその周辺を診て、以前に右前距腓靭帯が無くなっていると判断され、次に踵腓靭帯に曲がる時に負担がかかり、距骨が出てくるので、脛骨と腓骨が広げられて、前脛腓靭帯の損傷となる。その不安定な部位にテーピングで押さえると良いと言われ、手で固定しながら動かしながら痛みを確認しました。その後、痛みのある前距腓靭帯に熱感はなく、痛みがある前距腓靭帯の上っ面と下っ面の局所2か所に鍼を置鍼し、血流を良くして、タイトになっている所にゆるみ(隙間)をつくり、周辺の筋肉を緩める(筋肉リリース)ことを目的にされました。抜鍼をした後に立ち上がり、足首を背伸びして体重をかけさせ、脛骨と腓骨に引っかかって痛みが出ないように正しい動きを脳に覚えさせるようにしました。

 解説の中座で質問も受けられ、膝関節痛の患者やボクサー・剣道・マラソンの長距離と中距離の足の使い方や左官屋の肩を傷めない肩の動かし方や捻挫など高齢者の症例からスポーツ障害まで幅広く解説されました。

 最後に治療より大事なことは、いかに治りを妨げている間違った動きを正しくすること。正しい動きは何か?というと構造から考えましょう。構造上の特性から正しい動きを考えていくと治療はめちゃくちゃ簡単になる。運動器の起こっている事象だけを見るのではなくて、追求してどこからの痛みか、どこからのフェーズかで必ず治すチャンスがあると言われていました。 「関節の構造やこの考え方は独学で、自分で一つ説を打ち立てて全て毎日否定しにいき、論文や自分で否定しきれなかったものが自分の治療法として残っている。明日、答えが新しく見つかれば、変わるかもしれない。」と。

 構造として関節を見ていくと動かすとどのように関節のパーツが動くのか?連動するのか?正しい関節の動きはどうなのか?模型を使って詳細に解説頂きましたが、これを機に関節の構造について学び、関節の症状がどうして起こるのかが分かれば、治療に役立ち、予防を指導することができ、臨床に活かしていきたいと思いました。

(大阪府鍼灸師会研修委員 思川裕子)

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