研修会&講座のお知らせ
令和3年度第3回学術講習会報告
「ライフサイクルに応じた食養生」講師:大阪国際大学短期大学部 栄養学科 教授 久木 久美子先生
日時: 令和3年 9月 12日(日)
会場: 大阪府鍼灸師会館
みなさん守口大根はご存じでしょうか?
ごぼうみたいな細長い大根で、粕漬けなどに使われており、「世界最長の大根」としてギネスの世界記録にも認定されたことがあるくらい有名な大根です。
本日講演された久木先生の所属されている大阪国際大学短期大学部は大阪府守口市に位置し、守口市が守口大根発祥の地ということで、久木先生は守口大根の復興に向けても活動されており、久木先生は多方面に活躍されている先生です。
東洋医学的考え方を交え、科学的根拠に基づいた栄養指導について日頃の生活に取り入れやすいように楽しく食養生について講義していただきました。
まず鍼灸学校で栄養学の指導を行ったときに薬膳に興味を持たれた時の話をしてくださり、私はとても共感しました。
「岡山県の実家で育ち、畑でもぎたてのトマトを夏に食べた時のおいしさを思い出し、旬のものを頂く有難さを強く感じた。薬膳とは五感を感じておいしい!旬を感じる!というのを大事にしているということに共感した。」という話をしてくださり、その話を聞いて実家の野菜の味を思い出した方も多かったのではないでしょうか。
薬膳は体質を考えて調節する。
その観点をご自身の研究に応用され、東洋医学的体質を考慮して食養生を考案されました。
久木先生は科学的根拠に基づいた食養生の研究をされており、年代別・性別の違いを基に個人的な体質を考慮して食養生をアドバイスされています。体質を診るのに具体的な質問シートも教えてくださり、誰でもわかるようになっています。
具体的に肥満の方の体質と遺伝子の素因からその方の食生活の改善点を具体的に教えて頂きました。体質によって食べ方の違いや好むものも変わってくるのが不思議でとても興味深く、思わずいろんな方に伝えたくなりました。
久木先生は生活習慣病でも注目されている減塩についての研究も行っておられ、減塩を助ける香辛料について科学的に研究されています。実際に家庭料理に取り入れやすい料理がクミンのポークソテーなどで、クミンは肉料理へ用いると香りもよいし、減塩効果もあってこれはすぐに買いにいくしかありませんよね。
高血圧の原因は NaCl ではなく、本当は Na であり、顆粒だしに入っているグルタミン酸 Na が高血圧の原因になるので、パックだしなどに変えると減塩効果があります。 久木先生の新婚生活時代の食事の話などもしていただき、食生活の変化でのあるある話が、今後手料理を披露する方にとって、とても勉強になったのではないでしょうか。
貧血、便秘、フレイルなど今増えてきている疾患へのタイプ別の食養生もすぐに実践できるものばかりでした。
みなさんは毎日欠かさず食事をしますよね。その時に、日々少しでも久木先生の講義内容を取り入れることが出来れば、個々の体質に合った生活に近づけるのではないでしょうか。
自分だけでなく大切な家族や治療に来られる患者様にも正しい知識を伝え、この世の中に健康な人々が増えていけるように少しずつ変えていければ将来大きく変わるのではないでしょうか。
研修委員 今井 亜理紗
「鍼灸治療の効果を高める食事療法」
~ココロとカラダの健康薬膳~
講師:鍼灸館・スカイハーブ心斎橋 院長 前田 智美 先生
日時: 令和3年 9月 12日(日)
会場: 大阪府鍼灸師会館
前田先生の講義、実技をリモート講演で拝視聴させていただきましたが、ココロとカラダの健康に対するご熱心な思いが、画面を越えて直に伝わってきました。現在のコロナ禍にも打ち勝つための免疫力の向上につながるポイントなど鍼灸治療と食 ( 薬膳 ) を結んでお話ししてくださいました。内容は以下の通りです。
内側からのアプローチには、食事 ( 薬膳栄養学 ) でカラダづくり。
外側からのアプローチには、鍼灸治療を。
患者様に 24 時間付きっきりで治療やアドバイスは出来ませんが、食事アドバイスからのセルフケアなら、毎日続けていただくことが出来るという利点があります。
東洋医学の気血水と五行学説に基づいて、患者様の体質を分類することからはじめます。
気【生命活動の根源・活動エネルギー・自律神経】、血【身体を養う材料】、水 ( 津液 )【身体を潤す材料】の 3 つのバランスの中で崩しているバランスは何かと考え、そして五行学説に沿って 5 つの体質に分けて治療や食養生のアドバイスを行っていきます。
ご自身の体質をわかっておられないことが多いので「体質チェック」を五行学説の季節【春 = 肝・胆、梅雨 = 脾・胃、夏 = 心・小腸、秋 = 肺・大腸、冬 = 腎・膀胱】を基に行います。( チェックシートがあります。) 体調の変化を感じやすい季節が、その季節の影響を受けやすい体質と考えられます。体質がわかれば、それぞれ【春→解毒・青や緑の食材、梅雨→利水・黄の食材、夏→清熱・赤の食材、秋→潤肺・白の食材、冬→補腎・黒の食材】のように対応する経絡の治療や食材の効能効果を発揮させます。
<薬膳の基本>
薬膳とは東洋医学による食養生法であり、薬膳栄養学のことを言います。
薬膳発祥の原点は「神農」さんであり、食の知識・薬の知識を確認するために自らの身体で百草を食し試しました。最古の薬物専門書である「神農本草経」は、神農が確かめた植物に関する情報など神農以来、伝えられてきた食薬の知識がまとめられています。
食薬物を上薬・中薬・下薬に分類してあり、上薬:日常食して身体を養う目的、 中薬:病気予防の目的、 下薬:特定の病気を治療する目的 としています。
料理の中に上薬と中薬が 1 つでも入っていたら、薬膳料理となります。
薬膳栄養学のアドバイスや薬膳料理をすすめる時に使うものは、陰陽五行学説の五穀、五畜、五菜、五果、五経、食べ物には 5 つの性質がある、五性性質の熱、温、平、涼、寒味が持つ機能、五味の酸、甘、辛、苦、鹹、五臓の働き、酸(木肝春)、苦(火心夏)、甘(土脾長夏)、辛(金肺秋)、鹹(水腎冬)などであり、その効能効果で体質改善を促します。
食材五行学説に基づく季節に良い食材(一部抜粋)
春 【キャベツ・じゃがいも・たけのこ・レタス・にんにく・あさり など】
梅雨【アスパラガス・とうもろこし・オクラ・サクランボ・カツオ・アジ など】
夏 【きゅうり・ゴーヤ・トマト・なすび・梅しそ・メロン・すいか など】
秋 【しめじ・しいたけ・栗・リンゴ・梨・サバ・サンマ など】
冬 【大根・ごぼう・人参・ほうれん草・ネギ・みかん・ゆず など】
これからの季節は新型コロナウィルス対策として、しめじやしいたけが免疫力UPに大根が喉の痛み緩和、肺を潤すことでおすすめだそうです。
<実技編>要点をおおまかに記述
実技の流れ
1. 立位でカラダの確認 2. 仰臥位での皮膚状態の確認 3. 顔診、眼診、舌診、脈診、腹診 4. 仰臥位、腹臥位での治療 5. 治療穴 6. 薬膳食材、漢方薬アドバイス仰臥位での皮膚状態の確認では、肌の色見、肌の乾燥、毛穴の大きさ、産毛の生え方や量、温度の差などをみます。
主訴は必ず確認、問診した上で実技に入ります。腹診は打診法で音の確認をします。
患者様のモデルは胃腸が弱く、お身体にむくみがある症状です。
[ 鍼治療 ]
胃腸の治療、水分代謝・筋緊張改善の治療を行い、胃腸を健脾、健胃にして消化器官を健康状態にします。
治療穴:陰陵泉、三陰交、足三里、豊隆、太衝、章門、天枢、関元、中府、雲門、百会、目窓、神庭、胃兪、脾兪、小腸兪、大腸兪、風池、天柱、承筋、承山など
鍼の良さを続けるため、仰臥位で前頸部、胸腹部などに円皮鍼を施し、そのまま腹臥位になっていただいても鍼施術が出来るようにします。そして腹臥位で腰背部、頚肩部、下肢後面部などに鍼施術をします。
食のアドバイスとして呼吸器系を楽にします。また、栄養を摂るのに必要な咀嚼と嚥下に影響する頬筋にもアプローチします。リラックスして美味しいと感じる食事をしていただくために自律神経を安定させるように頭皮鍼を行います。
そして鍼治療をしながら患者様にお声をかけて、薬膳食材、漢方薬アドバイスを行います。
秋の白い食材(気管系を強くする)=大根…大根おろしで汁まで食して健脾健胃の体質もっていく。豆腐…潤肺
黒い食材 = 黒ゴマ、黒豆、黒きくらげ…補腎 麦門冬湯=気管の乾燥、空咳に効果あり。コロナウィルス対策にもよい。
身近な食材が身体を養う目的や病気予防の目的で使うだけで薬膳料理となるとは、知りませんでした。少し意識するだけで意図するだけで立派な薬膳料理。
鍼灸治療とともに薬膳栄養学の食事を患者様にお伝えして内外からココロとカラダを整えていく大切さを教えていただきました。臨床に役立つとても貴重なご講義をどうもありがとうございました。
研修委員 田口 まゆみ