公益社団法人 大阪府鍼灸師会

研修会&講座のお知らせ

令和3年度第1回学術講習会報告

「フレイル-鍼灸臨床における評価と実際」


講師:明治国際医療大学 鍼灸学部 鍼灸学科 特任教授 江川 雅人先生
日時: 令和3年 5月 9日(日)
会場: 大阪府鍼灸師会館

 「人生 100 年時代」と唱え始めたのは、ロンドンのビジネススクールのリンダ・グラットンで、2007 年生まれの半数が 107 歳まで生きると唱えています。このことから日本政府は人口ピラミッドの先細りを懸念し、国民を教育して、健康で、年がいっても仕事をして「自分で自分を支える(養える)」ことを提唱し始めます。
 本川達雄氏が本来ヒトの寿命は 50 歳であり、それ以降は人工的に生み出された特別な時間であるが、平均寿命が延びる中で健康寿命は若干勝っていますが、と口を濁され、大阪府では他府県よりも寿命は短く、介護費用や介護認定率も高い現状になっています。要支援の認定は関節の病いと関係があり、要介護では脳卒中・認知症・関節の病いと関係があります。 2019 年には透析の患者が 35 万人になり、1980 年を境に慢性糸球体腎炎による透析者より糖尿病による透析者が増えています。女性では 75 歳~ 85 歳、男性では 70 歳~ 80 歳で透析になる方が多く、男女とも 70 歳以上です。透析後の平均寿命は 10 年満たず、全身の動脈硬化が原因になります。50 歳の健康なヒトの腎蔵機能を 100%とした場合、透析をしても 5 ~ 10%しかありません。透析者は心不全・関節症・がんの発症が多く、機能予後・社会とのかかわり・生命予後の順で見守りが必要です。
 アルミニウム脳症の問題は無くなったものの、脳血管性認知症が 75 歳以上の透析者に増えています。これは、透析による血圧の変動が大きいからです。透析中に血圧が下がり、脳の萎縮が起こり、認知症のリスクが上がります。透析後に起立性低血圧を起こす人も高くなります。
 女性の閉経後は大腿骨頸部骨折が増加しますが、リンが高くなることが原因です。降圧剤により脳血流が悪くなり転倒のリスクが 1.43 倍になり、透析関連低血圧では、転倒リスクが 2.7 倍にもなります。
 身体能力が落ちる高齢者は血圧を下げ過ぎないことです。
 腎臓病は、心血管病とフレイルが問題です。
 大阪急性期総合医療センターでのコロナウイルス感染は 2021 年 4 月 19 日より 30 病床の重症患者の受け入れをしています。5 月 6 日時点で 4377 人のうち 747 人の受け入れをしていて、501 人が退院し、122 名が死亡し、死亡率は 17.5%になっています。(国内全体の死亡率は 1.7%)
 2021 年 4 月の調査で 1600 名、65 ~ 84 歳の高齢者の運動時間が 245 分から 180 分に減っていることと少し動けていた高齢者と運動をしていた高齢者が運動量の減少があることが問題です。
 インターネット(PC操作が出来る)にアクセスが出来る人がフレイルの予防になっていることもわかっています。
 EBMとは「最善の根拠」を基に、それに「臨床家の専門性(熟練、技能など)」、そして「患者の希望・価値観」を考え合わせて、より良い医療を目指そうとするものです。鍼灸のデータが少なく、その中で灸の効果として 400 人に灸を施す方と施さない方で施す方で血清クレアチニンが下がり、QOL に効果があるのがあったが、鍼の CKD に対する効果が得られていませんでした。EBM には、臨床経験と患者の想いも大切ですが、やはり科学的根拠・データの蓄積を訴えられていました。
 今回は慢性腎臓病とフレイルについて、人生 100 年時代と言われながら 70 歳以上に腎臓病で透析になるヒトが多く、その後の寿命は 10 年満たず、認知症と転倒のリスクが高まりフレイルになることを教えて頂きました。コロナ禍の大変な時に大阪急性期総合医療センターの現状を話して下さり、高齢者の運動量の減少も危惧されていました。また、腎臓病に対する鍼灸の効果を調べてデータが無い中でデータを教えて頂き、今後データを増やしていくように期待をかけて頂きました。鍼灸業界として、臨床鍼灸師として日々のデータを電子カルテなど活用して収集していくことで鍼灸の EBM の確立を目指すことの必要性を感じました。

研修委員 思川裕子

「フレイル-鍼灸臨床における評価と実際」


講師:明治国際医療大学 鍼灸学部 鍼灸学科 特任教授 江川 雅人先生
日時: 令和3年 5月 9日(日)
会場: 大阪府鍼灸師会館

本講習会 2 講目は、明治国際医療大学の江川先生よりフレイルを鍼灸臨床の観点からお話して頂きました。江川先生は、明治国際医療大学の特任教授でありながら、福井県若狭の同大学付属鍼灸院にて日々臨床されていらっしゃいます。同鍼灸院は、日帰り温泉施設内にあり、産官学連携のもと開院されたものとなります。今後、新しい時代の湯治の可能性を研究される予定だそうです。
1.フレイルとは
 フレイルとは①身体的フレイル②精神・心理的フレイル③社会的フレイルと分類されるように高齢期における生理的予備能が低下することです。しかし、しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性があります。判断基準としては、「改訂J-CHS」基準や厚生労働省作成の「基本チェックリスト」を参考にします。またフレイルサイクルとは、フレイルの中心的因子となる低栄養とサルコペニアからあらゆる因子が関連して依存(要介護)状態になっていくことを示しています。
2.鍼灸院に来院する高齢者のフレイルの状況
 まず、鍼灸院に来院する高齢者のフレイルの状況として、明治国際医療大学付属鍼灸センターに来院した 65 歳以上の高齢者(要支援・要介護未認定 89 例)を対象に調査した結果、鍼灸院に来院する高齢者はフレイルの割合が高く、フレイル因子では身体機能の低下、口腔機能の低下、抑うつの発現が示されました。これは、鍼灸治療が要支援・要介護の予防に位置づけられていて、臨床におけるフレイルの認識と包括的な治療の必要性を示唆していました。また、身体機能について①全身の筋力→利き手の握力②歩行機能→ 3m - TUGT ③バランス機能→ Functional Reach Test(FRT) ④口腔機能→最大舌圧をそれぞれ計測し、過去の研究と比較した結果、いずれも虚弱であることが分かりました。これは、鍼灸院に来院する方は、何らかの症状があり、ある程度虚弱状態が予想されます。特に前期高齢者でフレイル率が高くなることも鍼灸師は理解しておく必要があります。
3.フレイル因子に対する鍼灸治療
 こちらも同大学付属鍼灸センターにおいて 48 例(75 歳 ±6.3 歳)鍼灸治療の前後で上記4 つの計測を行った結果、虚弱な高齢者に限ってそれぞれの数値が向上した結果となりました。
 以上の研究結果より、フレイルに対する鍼灸治療をまとめると、鍼灸院に来院する高齢者のフレイル割合は過去の調査結果と比較しても高く、特に身体的機能の低下・口腔機能の低下・抑うつといったフレイル因子の発現が示され、鍼灸治療を介入することによりフレイル指標値(握力・TUGT・FRT・舌圧)が、虚弱な群において向上を示す割合が高く、要支援・要介護予防の鍼灸治療の有効性が示唆されました。
 また、鍼灸治療重ねることで、フレイルの予防や健康状態への回復が期待され、健康長寿のための鍼灸治療の有効性を示されるものと期待しました。
4.フレイル因子の評価方法と予防体操
 ①握力…注意点としては、高齢者にとって 3 回測定することは負担が大きいので、2回測定して高い値を測定値としても構わない。本来は立位で測定するが、バランスが悪ければ座位でも良い。
 ② TUGT…歩行バランス機能の評価方法です。椅子から 3m 離れたところにある目標物を置き、座った状態から立ち上がり、歩き出して目標物を回って再び椅子に座るまでの時間を計測します。(13.5 秒以上は転倒リスクが予想される)
 ③ FRT(ファンクショナルリーチテスト)…立位で足を肩幅程度に開き、両手を前方に出し、倒れない程度まで前方へリーチできる最大距離を測定することで、転倒リスクやバランス能力を評価します(平均値は 25㎝~ 30㎝)。
 ④鎌田式かかと落とし…椅子の背もたれやテーブルなどに手を添えて立ち、かかとで踏ん張って、つま先を上げる。注意点は腰が引けないようにすること。そのままの姿勢でキープし、かかとをストンと落とす。この体操は、かかとを落とすことによって下腿の骨(骨芽細胞)に刺激を与え、骨ホルモン(オステオカルシン)が分泌され、臓器の働きを活性化させることが分かっています。
5.まとめ
 江川先生には、豊富な研究データを示して頂き、フレイルに対する鍼灸治療の有効性を確認できたのではないでしょうか。鍼灸臨床上では、皆さんも感じていることと思いますが、鍼灸治療そのものがフレイル予防になっており、治療を重ねることで健康状態への回復に寄与できるはずです。
 今回は、コロナ禍において大きな問題であるフレイルについて学ぶ機会となりました。
今後の課題として、多くのデータ集積によるエビデンス構築も必要であると感じました。
研修委員長 荒木善行

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