霊枢勉強会報告
報告『黄帝内經靈樞』 脹論(ちょうろん) 第三十五 第二章NEW
講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生日時 :令和七年(2025年) 3月9日(日) 第48回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者: 会場参加者 15名
○『黄帝内經靈樞』 脹論(ちょうろん) 第三十五 第二章(一部を抜粋)
○01 黄帝曰。 02 何以知藏府之脹也。
01 黄帝(こうてい)曰(いわ)く、 02 何を以(もっ)て藏府(ぞうふ)の脹(ちょう)を知らん、 と。
(解説)
*腹部に藏(ぞう)や府(ふ)があることを前提として、藏府(ぞうふ)に脹(ちょう)はどのように関わってくるのかと、黄帝(こうてい)が歧伯(きはく)に問いかけている。
*五藏(ごぞう)の脹(ちょう)というのは、それぞれ「肺の脹(ちょう)」であるとか「腎の脹(ちょう)」、「心の脹(ちょう)」などに分れている。
○03 歧伯曰。 04 陰爲藏。 05 陽爲府。
03 歧伯(きはく)曰(いわ)く、 04 陰(いん)は藏(ぞう)爲(た)り、 05 陽(よう)は府(ふ)爲(た)り、 と。
(解説)
*歧伯(きはく)は、藏(ぞう)と府(ふ)は陰と陽に分れるのだと答えている。
○06 黄帝曰。 07 夫氣之令人脹也。 08 在于血脈之中耶。 09 藏府之内乎。 10 歧伯曰。 11 三(一云 「二」 字)者皆在焉。 12 然非脹之舍也。
06 黄帝(こうてい)曰(いわ)く、 07 夫(そ)れ氣(き)の人(ひと)をして脹(ちょう)せしむるや、 08 血脈(けつみゃく)の中(なか)に在(あ)るか、 09 藏府(ぞうふ)の内(うち)か、 と。
10 歧伯(きはく)曰(いわ)く、 11 三つ 【 一(いつ)に云(い)う、 「二(に)」の字と。 】 の者(もの)、 皆(み)な存(そん)す。 12 然(しか)れども脹(ちょう)の舍(しゃ)に非(あら)ず、 と。
(解説)
*07節で黄帝(こうてい)は歧伯(きはく)に、 「脹(ちょう)」という病(やまい)は「氣(き)」が原因で起るのであるが、 と前置きをした上で尋ねている。
*「氣(き)」とは何か、これはからだの中のさまざまな機能的なもののあらわれだと、ひとまず考えておこうか。 「氣(き)」というものが先ず有り、 氣(き)が原因となって「脹(ちょう)」というものが起こる。 それを前提とした問いかけであろう。
*08~09節で「脹(ちょう)」というものが、 からだの浅い部分の「血脈(けつみゃく)」という部分にあるのか、それとも藏府(ぞうふ)の内側に、それが起こるのかを黄帝(こうてい)は、 歧伯(きはく)に尋ねている。
*10~11節で、歧伯(きはく)はこのように答えている。
「 氣(き)というものが影響を与えて、血脈(けつみゃく)と藏府(ぞうふ)、この二つ( *三つは誤り )に関わって「脹(ちょう)」というものは起こる。 」
*11節の「三つ」は『太素(たいそ)』および『甲乙經(こういつきょう)』という本では「二つ」と記載されている。
*12節「 脹(ちょう)の舍(しゃ)に非(あら)ず」というのは「脹(ちょう)がとどまっている具体的な場所ではない。 具体的な場所は別にあるのだ。 」 と言っているのだろう。
*楊上善(ようじょうぜん)という人は、このように言っている。
「 衞氣並脈而行循分肉之間爲脹。 血脈及五藏六府各脹、 故曰二者在焉。 然非脹之所舍處也。 」
これを読んでみると、
【 衞氣(えき)、脈(みゃく)に並(なら)びて、 行(ゆ)きて分肉(ぶんにく)の間(かん)を循(めぐ)り、 脹(ちょう)を爲(な)す。 血脈(けつみゃく)及び五藏六府(ごぞうろっぷ)、各々の脹(ちょう)、 故(ゆえ)に二者(にしゃ)存(そん)すると曰(い)う。 然(しか)り、 脹(ちょう)の所舍(しょしゃ)する處(ところ)に非(あら)ず。 】
*衞氣(えき)によって脹(ちょう)というものが起こるのだという叙述が後にあり、その文章を先取りして彼は説明している。 血脈(けつみゃく)や五臓六腑(ごぞうろっぷ)に各々、脹(ちょう)というものがある。 肺(はい)の脹(ちょう)や、腎(じん)の脹(ちょう)、脾(ひ)の脹(ちょう)などがある。 そこで二者、血脈(けつみゃく)と五蔵六府(ごぞうろっぷ)があると言っている。 しかし、そこは脹(ちょう)が具体的に起こる場所ではない、 そんなことを言っている。
*姚宗(ようそう)という人は、 藏府と血脈で三者と解釈した上で、このように解釈している。 「 此病在氣、 而及于藏府血脈之有形、 故三者皆存焉。 【 此(こ)の病(やまい)氣(き)に在(あ)り。 而(しか)して藏府(ぞうふ)血脈(けつみゃく)の形(かたち)有るに及(およ)び、 故(ゆえ)に三者(さんしゃ)皆(み)な存(そん)す。 】 」
*張介賓(ちょうかいひん)という人は、その著作『類經(るいきょう)』において、このように記している。
「 舍、 言留止之處也。 【 舍(しゃ)、 留止(りゅうし)する處(ところ)を言うなり。 】 」
*つまり「脹(ちょう)」が具体的にある場所が舍(しゃ)なのだと言っている。
*もう一度、06節から12節までを説明する。 血脈や藏府(ぞうふ)に関わって「脹(ちょう)」というものが起こる。 しかし具体的には藏府(ぞうふ)と皮膚の間に、そのあらわれとして「脹(ちょう)」が起こるのだということが、述べられている。
○13 黄帝曰。 14 願聞脹之舍。 15 歧伯曰。 16 夫脹者。 17 皆在于藏府之外。 18 排藏府。 19 而郭胸脇。 20 脹皮膚。 21 故命曰脹。
13 黄帝(こうてい)曰(いわ)く、 14 願(ねが)わくは脹(ちょう)の舍(しゃ)を聞かん、 と。 15 歧伯(きはく)曰(いわ)く、 16 夫(そ)れ脹(ちょう)は、 17 皆(み)な藏府(ぞうふ)の外(そと)に在り。 18 藏府(ぞうふ)を排して、 19 胸脇(きょうきょう)を郭(かく)とし、 20 皮膚に脹(ちょう)す。 21 故(ゆえ)に命(な)づけて脹(ちょう)と曰(い)う、 と。
(解説)
*馬蒔【 ばじ, 馬玄臺(ばげんだい)も同一の人 】は、このように言う。
「 夫脹不在于血脈之中。 亦不在于藏府之内、 乃在于藏府之外、 胸脇之内、 排其藏府、 而以胸脇爲郭、 其皮膚亦爲之脹、 此則脹之所舍也。 【 夫(そ)れ脹(ちょう)は血脈の中には在(あ)らず。 亦(ま)た藏府(ぞうふ)の内(うち)にも在(あ)らず。 乃(すなわ)ち藏府(ぞうふ)の外、 胸脇(きょうきょう)の内(うち)に在り。 其(そ)の藏府(ぞうふ)を排し、 而(しか)して胸脇(きょうきょう)を以(もっ)て郭(かく)と爲(な)し、 其(そ)の皮膚も亦(ま)た、之(これ)脹(ちょう)と爲(な)す。 此(こ)れ則(すなわ)ち脹(ちょう)の舎(やど)る所(ところ)なり。 】 」
*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜午前10時から12時まで、大阪府鍼灸師会館3階です。勉強会の案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。
次回は 5月11日(日)、『霊枢』「五閲五使(ごえつごし) 第三十七」 です。 『靈樞(れいすう)』が伝える先達(せんだつ)の何か、そいつを感じてみませんか。 どこからでも興味のある篇の受講、大歓迎です。 会場はライブ感がありますし、web受講は自宅でも出来ますので、どうぞご参加ください。
(霊枢のテキスト〈日本内経医学会 発行,明刊無名氏本〉は現在1冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)
(霊枢勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)