公益社団法人 大阪府鍼灸師会

霊枢勉強会報告

報告『黄帝内經靈樞』海論(かいろん)第三十三NEW

講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生
日時 :令和七年(2025年) 2月9日(日) 第47回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者: 会員(準会員含む)12名(内Web8名) 会員外37名(内Web21名) 学生7名(内Web7名)

○『黄帝内經靈樞』 海論(かいろん) 第三十三
○はじめに
*この「海論(かいろん) 第三十三」は、本書「五十營(ごじゅうえい) 第十五」の篇などと同様に、自然と人間を有機的に結び付けようとする試みの一つである。 自然に見出されるものを人体にも見出そうとする試みと言って良い。 この篇で「四海(しかい)」として挙げられているものは、きわめて興味深いものである。

①髓海 (腦【のう】)
②血海=十二之海(衝脈)
③氣海 (膻中)
④水穀之海 (胃)

①髓海(腦)
現在は「腦(のう)」という伝統医学の言葉を、日本の現代医学の言葉として使っているので、 伝統医学における「腦(のう)」という概念は混乱したものとなっている。

②血海=十二之海(衝脈【 しょうみゃく 】)
ここでいう「衝脈(しょうみゃく)」は『難經(なんぎょう)』という本で「奇経八脈(きけいはちみゃく)」として定義されている衝脈(しょうみゃく)とは別のものである。 『素問(そもん)』と『靈樞(れいすう)』の成立した時代の「衝脈(しょうみゃく)」には「奇経(きけい)」の一つという概念はない。 「衝脈(しょうみゃく)」を「奇経八脈(きけいはちみゃく)」として使う人は、 『素問(そもん)』『靈樞(れいすう)』と『難經(なんぎょう)』を混同して考えようが、それはあまりよろしくはないと思う。

③氣海 (膻中【だんちゅう】)
『靈樞(れいすう)』「五味(ごみ)第五十六」の篇にこのような文章がある。

「 其大氣之搏而不行者。 積于胸中。 命曰氣海。 【 其(そ)の大氣(たいき)の搏(う)ちて行(めぐ)らざる者(もの)は、 胸中(きょうちゅう)に積(つ)む。 命(な)づけて氣海と曰(い)う。 】 」

「氣海」は、この文章にあらわされたものと合致している。 「氣海(きのうみ)」を「氣海(きかい)」と読んでしまうと經穴(けいけつ)だと思ってしまうので注意が必要か。

④水穀(すいこく)の海(うみ) (胃)
『素問(そもん)』「五蔵別論篇(ごぞうべつろんへん)第十一」にこのような文章がある。

「 胃者水穀之海。 六府之大源也。 【 胃(い)は水穀(すいこく)の海(うみ)。 六府(ろっぷ)の大源(たいげん)なり。 】

胃についてはほかに『素問(そもん)』「玉機真藏論(ぎょっきしんぞうろん)篇 第十九」に

「 五藏者。 皆稟氣於胃。 胃者五藏之本也。 【 五藏(ごぞう)は、 皆(み)な氣(き)を胃(い)より稟(う)け、 胃(い)は五藏(ごぞう)の本(もと)なり。 】 」

『靈樞(れいすう)』「五味第五十六」に

「 胃者。 五藏六府之海也。 【 胃は、 五藏六府(ごぞうろっぷ)の海なり。 】 」



*(伝統医学で言う)胃には三つの位置づけがある。

・五藏六府として六府(ろっぷ)の一つである胃、 脾(ひ)と表裏をなしている。

・五藏(ごぞう)全体に対しての胃。 後天(こうてん)の精気、つまり栄養物を与えるための胃。

・腸胃(ちょうい)としての胃。 「胃の大きさ云々」というように解剖学的な意味の胃。


○『黄帝内經靈樞』 海論(かいろん) 第三十三(一部を抜粋)

○32 黄帝曰。  33 定之柰何。  34 歧伯曰。  35 胃者。  36 水穀之海。  37 其輸上在氣街。  38 下至三里。

32 黄帝(こうてい)曰(いわ)く、  33 之(これ)を定(さだ)むること柰何(いかん)、 と。  34 歧伯(きはく)曰(いわ)く、  35 胃は、  36 水穀(すいこく)の海(かい)、  37 其(そ)の輸(ゆ)、 上(かみ)は氣街(きがい)に在(あ)り。  38 下(しも)は三里(さんり)に至(いた)る。

(解説)
*四海(しかい)というものを確定するのはどのようにしたら良いかを黄帝(こうてい)が問うている。 それについて歧伯(きはく)という人は、こう答える。 

「 四海(しかい)の一つ、水穀の海というのは胃(い)である。 胃というものは食べたものを入れる場所であり、栄養物を出す水穀の海である。 そんな胃(い)というものを治療する場所は氣街【 きがい,現在の気衝(きしょう)穴 】 と三里(さんり)の穴である。 」

*ここで經穴(けいけつ)が出て来ると、その所属する經脈(けいみゃく)を考えてしまうが、その考えは入れなくても良い。 胃(い)というものの主治穴は氣街(きがい)と三里(さんり)だというふうに考えても良いと思う。


*37節の「氣街(きがい)」とは、気衝(きしょう)穴のことである。

**気衝(きしょう): 部位 鼡径部(そけいぶ), 恥骨結合(ちこつけつごう)上縁と同じ高さで,前正中線の外方2寸,大腿動脈拍動部。
(『新版 経絡経穴概論 拡大版』 122ページより引用, 発行所 医道の日本社, 編者 日本理療科教員連盟・ 社団法人 東洋療法学校協会, 2009年4月)


*「水穀の海」について郭靄春(かくあいしゅん)氏はこのようなことを書いている。
「胃は水穀の海。 “海”はものが集まってくる場所をたとえたものである。 《禮記(らいき)・鄕飮酒義》鄭注に “海,水之委也( 海は水の委なり。 )” “委”は水流のあつまる所。 」


○39 衝脈者。  40 爲十二經之海。  41 其輸上在于大杼。  42 下出于巨虚之上下廉。

39 衝脈(しょうみゃく)は、  40 十二經(じゅうにけい)の海(うみ)爲(た)り。  41 其(そ)の輸(ゆ)、 上(かみ)は大杼(だいじょ)に在(あ)り。  42 下は巨虚(こきょ)の上下(じょうげ)の廉(すみ)に出(い)づ。

(解説)
*ここで、考えなくてはいけないことがある。 すでに「藏府(ぞうふ)」があり「經脈(けいみゃく)」があるところに、「四海(しかい)」という概念をかぶせている。 そういったところでは、衝脈(しょうみゃく)というものは十二經(じょうにけい)に属さないものとしてある。 39~40節では「 衝脈(しょうみゃく)こそ十二經(じゅうにけい)を代表するものだ」 と、そんな意味あいを込めている。 その輸(ゆ)というのは、大杼(だいじょ)穴にあると言っている。

*42節の「巨虚(こきょ)」は上下(じょうげ)の廉(すみ)と言っている。 現代の経絡経穴学を学んだ私たちには巨虚上廉(こきょじょうれん,上巨虚穴) や巨虚下廉(こきょげれん,下巨虚穴) という穴を思い起こさせる。 皆さんの概念が混乱するかもしれないが、ここでは「巨虚(こきょ)」というのは、大きくくぼんだところを指す。 


*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜午前10時から12時まで、大阪府鍼灸師会館3階です。勉強会の案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。
次回は 4月13日(日)、『霊枢』「五癃津液別(ごりゅうしんえきべつ) 第三十六」です。『靈樞(れいすう)』は始めからやらなきゃ、それって思い込みかも知れません。 どこからでも興味のある篇の受講、大歓迎です。 会場はライブ感がありますし、web受講は自宅でも出来ますので、どうぞ。

(霊枢のテキスト〈日本内経医学会 発行,明刊無名氏本〉は現在1冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)


(霊枢勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)

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