霊枢勉強会報告
報告霊枢勉強会報告 『黄帝内經靈樞』 周痹(しゅうひ)第二十七・第四章NEW
講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生日時 :令和六年(2024年)7月14日(日)第40回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者:会員6名(会場) 一般12名(会場) 学生4名(会場)
*7月度は会場22名でした。
○『黄帝内經靈樞』 周痹(しゅうひ)第二十七・第四章
○01 黄帝曰。 02 善。 03 此痛安生。 04 何因而有名。
01 黄帝(こうてい)曰(いわ)く、 02 善(よ)し。 03 此(こ)の痛み、安(いず)くにか生(しょう)じ、 04 何(なに)に因(よ)りて名(な)有る、と。
(解説)
*03節の「安(いず)くにか」というのは、「どこに」と言う意味である。ここでは周痹(しゅうひ)がどこに出来るかを問うている。
*04節の「何に因(よ)りて名(な)有る」というのは、なぜ周痹(しゅうひ)と呼ばれるのかを問うている。
05 歧伯對曰。 06 風寒濕氣。 07 客于外分肉之間。 08 迫切而爲沫。 09 沫得寒則聚。 10 聚則排分肉而分裂也。 11 分裂則痛。 12 痛則神歸之。 13 神歸之則熱。 14 熱則痛解。 15 痛解則厥。 16 厥則他痹發。 17 發則如是。
05 歧伯(きはく)對(こた)えて曰(いわ)く、 06 風寒濕(ふう・かん・しつ)の氣(き)、 07 外(そと)、分肉(ぶんにく)の間(かん)に客(やど)り、 08 迫切(はくせつ)して沫(まつ)を爲(な)す。 09 沫(まつ)、寒(かん)を得(う)れば則(すなわ)ち聚(あつ)まる。 10 聚(あつ)まれば則(すなわ)ち分肉(ぶんにく)を排して分裂す。 11 分裂すれば則(すなわ)ち痛む。 12 痛(いた)まば則(すなわ)ち神(しん)、之(これ)に歸(き)す。 13 神(しん)、之(これ)に歸(き)さば則(すなわ)ち熱(ねっ)す。 14 熱(ねっ)すれば則(すなわ)ち痛解(つうかい)す。 15 痛解(つうかい)すれば則(すなわ)ち厥(けつ)す。 16 厥(けつ)すれば則(すなわ)ち他(た)の痹(ひ)發(はっ)す。 17 發(はっ)すれば則(すなわ)ち是(かく)の如(ごと)し、と。
**【押韻】
「沫」(月韻)、 「裂」(月韻)、 「熱」(月韻)、 「厥」(月韻)、 「發」(月韻) 押韻。 (当日配布資料21ページ,15~16行より)
(解説)
*06~07節では、風寒濕(ふう・かん・しつ)の氣(き)が、腠理(そうり)から肌肉(きにく)にとどまっているのだと言っている。分肉(ぶんにく)というのは肌肉(きにく)なのだが、ここではからだの浅い部分から肌肉(きにく)までの間に風寒濕がとどまっているのだと言う。
*08節「迫切(はくせつして)というのは、風寒濕の氣(き)とそれと敵対する成分の津液(しんえき)のようなもの、と普通は解釈する。そして「沫(まつ)」というものを起こすのだと言う。歴代の注解を見ると「沫(まつ)」というのは「痰飲(たんいん)」のことだと言われている。
*09節では「沫(まつ)」が寒(かん)の気の影響を受けると凝縮すると言っている。
*10節では「沫(まつ)」というものが凝縮した状態になると、それによって肌肉(きにく)が圧迫され裂けるのだと言う。
*11節は肌肉(きにく)が裂けると痛むのだ、と言っている。。
*12節の「歸(き)す」というのは集中するということである。ここでは痛むと精神が痛みに集中するのだと言っている。
(ただし)ここで使った「精神」という言葉は「意識(いしき)」のことではない。「精神」を「意識」と訳するような例は(中国医学の)医学書の中には出て来ない。「精神」というのはまとめて言えば「正氣(せいき)」のことである。「正氣(せいき)」を陰と陽に分けると「精氣(せいき)」と「神氣(しんき)」になる。凝縮した「沫(まつ)」の部分に「精氣(せいき)」と「神氣(しんき)」が集まって来る。
*13節では、凝縮した「沫(まつ)」の部分に「正氣(せいき)」(「精氣」と「神氣」) が集まって来て、発熱するのだ、と言う。
*06節から11節までの間で起っていることは、痛みが出て熱を持つ、これだけである。 その間に起る機序というものをこのような形でイメージしている。 「正気」が集まって来て「風寒濕」の気と争って熱を起こす、そのように解釈するのが良いかと思う。
*14節では「痛解(つうかい)」、つまり発熱すれば痛みが解消するのだと言っている。熱を発することが痛みを解消するプロセスだと見ているのだと思う。
*15節では、痛みは解消するが次は「厥(けっ)す」のだと言う。「厥(けっ)す」つまり「厥逆(けつぎゃく)」が発生すると言う。 気のめぐりの悪いところが、また別に出て来る。
気のめぐりが悪いというのは、風寒濕(ふう・かん・しつ)のうち特に「湿邪(しつじゃ)」によるものである。ふつう厥逆(けつぎゃく)というのは、足が冷え、からだの下部から上部に向かって症状が起こるもので、頭が痛くなったり、胸が動悸したり、そのような状態になる。
しかし15節の「厥逆(けつぎゃく)」は、そうでは無い。この場合の「厥逆(けつぎゃく)」は湿邪(しつじゃ)があって気のめぐりが悪くて、そして冷える、このような状態が、からだの別の部分で発生するのだと言う。
*16節では、厥逆(けつぎゃく)が発生すると、からだの他の部分に痛みが出て発熱するのだと言う。その部分の痛みが発熱によって解消すると、そこが厥逆し、また別の部分が痛み発熱するのだと言う。
*17節で「周痹(しゅうひ)」という病態を呈する、とはこのようなものである、と結んでいる。
*張志聰(ちょうしそう)という人は、このような注解を入れている。
「 分肉、肌肉之腠理。 沫者、 風濕相搏、 迫切而爲涎抹也。 【 分肉(ぶんにく)は肌肉(きにく)の腠理(そうり)、 沫(まつ)は、 風濕(ふう・しつ)相搏(あいう)ちて、 迫切(はくせつして涎沫(えんまつ)を爲(な)す也(なり) 】 」
*緊張すると口の中のつばきなどが強い粘りを持つ。そういう状態のことを「沫(まつ)」というふうに考えれば良いのであろう。
*皮膚の肌理(きめ)のことを腠理(そうり)と言う。 腠理(そうり)と皮毛(ひもう)は近い概念である。皮毛(ひもう)は脈とか肌肉(きにく)と一緒に使われる言葉である。 腠理(そうり)は単独で使われる言葉であり、汗が出たりする時に使われる言葉である。 「 分肉(ぶんにく)は肌肉(きにく)の腠理(そうり) 」というのは変な表現であるが、からだの中の浅い部分を分肉(ぶんにく)と解釈している。
*口の中で白くて「ねちゃねちゃ」したものが「痰(たん)」であるが、そんな状態のものが、からだの中をめぐっているというイメージである。
「サラッ」としている液体成分である「津液(しんえき)」が、熱によって「ねちゃねちゃ」したものに変わっている。
ここでは「沫(まつ)」と呼ばれているものが、そのような状態のものである。
*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜午前10時から12時まで、大阪府鍼灸師会館3階です。勉強会の案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。
次回は2024年 9月8日(日)、『霊枢』「口問 第二十八」です。
(霊枢のテキストは現在1冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)
(霊枢勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)