公益社団法人 大阪府鍼灸師会

霊枢勉強会報告

報告霊枢勉強会報告 『黄帝内經靈樞』 病本(びょうほん)第二十五・第一章NEW

講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生
日時 :令和六年(2024年)6月9日(日)第39回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者:会員8名(会場) 一般10名(会場)
*6月度は会場18名でした。

○『黄帝内經靈樞』 病本(びょうほん)第二十五・第一章

○01 先病而後逆者。 02 治其本。 03 先逆而後病者。 04 治其本。

01 先(ま)ず病(や)みて後(のち)に逆(ぎゃく)なる者は、 02 其(そ)の本(ほん)を治(ち)す。
03 先(ま)ず逆(ぎゃく)して後(のち)に病(や)む者は、 04 其(そ)の本(ほん)を治(ち)す。
(解説)
*01節の「病(や)む」というのは、日常ならざる何かの症状を指していよう。たとえば頭が痛いとか、くびが痛いとかの症状である。「逆(ぎゃく)」というのは「厥逆(けつぎゃく)」のことである。からだの下から上へ、あるいは上から下へめぐる気(き)の、そのめぐりが滞ってしまうことが原因となる。からだの下から上って行った気(き)が上ったままになって、足が冷えて頭や胸などに症状が出るのが「厥逆(けつぎゃく)」である。

*02節の「本(ほん)」について、王冰(おうひょう)という人はこのように言う。
「本、先病。 標、後病。(本は先病なり。標は後病なり)」

*本(ほん)というのは先に出た症状、標(ひょう)というのは後(のち)に出た症状だと言っている。


*馬玄臺 【ばげんだい,馬蒔(ばじ)も同一人】 はこのように言う。
「 夫(そ)れ、先(さき)に病むを本(ほん)と曰(い)い、後(のち)に病むを標(ひょう)と曰(い)う。故(ゆえ)に凡(およ)そ先(ま)ず初病(しょびょう)生(しょう)じ、而(しか)して後(のち)に病勢(びょうせい)逆(ぎゃく)する者(もの)、必ず先(ま)ず其(そ)の初病(しょびょう)の本(もと)爲(た)るを治(ち)す。若(も)し先(ま)ず病勢(びょうせい)逆にして、而(しか)して後(のち)に他病(たびょう)を生(しょう)ずる者(もの)は、則(すなわ)ち必ず病勢(びょうせい)逆(ぎゃく)の本(もと)爲(た)るを、而(しか)して先(ま)ず之(これ)を治(ち)す也(なり) 」

(**「而して(しかして): そうして。そうであるから。『広辞苑第七版』,2018年1月,新村出編,(株)岩波書店発行より」)

*ここで言う「逆(ぎゃく)」を厥逆(けつぎゃく)と取るか、あるいは馬玄臺(ばげんだい)が言うように「病勢が逆」と取るかで01~04節の解釈は変わってくると思う。
馬玄臺(ばげんだい)の言う「病勢が逆」という意味は決してわかりやすい言葉ではない。

*「逆(ぎゃく)」という字に対し、郭靄春(かくあいしゅん)という人は、その著においてこのように記している。
「先逆而後病者: “逆”指氣血逆行。 馬蒔曰: “先病勢逆而後生他病者, 則必以病勢逆之爲本, 而先治之也。”」

【 先(ま)ず逆して後に病(や)む者: 「逆(ぎゃく)」は氣血(きけつ)逆行を指す。 馬蒔(ばじ)は、これをこのように言っている。 “先(ま)ず病勢(びょうせい)逆にして、而(しか)して後(のち)に他病(たびょう)を生(しょう)ずる者(もの)は、則(すなわ)ち必ず病勢(びょうせい)逆(ぎゃく)の本(もと)爲(た)るを、而(しか)して先(ま)ず之(これ)を治(ち)す也(なり)” 】

*「逆(ぎゃく)」の意味を、ここでは「氣血(きけつ)逆行」ではなく、「厥逆(けつぎゃく)」と採りたい。


*『靈樞經校釋(れいすうきょうこうしゃく)』では「本(ほん)」と「標(ひょう)」についてこのようなことを言っている。
「本(ほん)には本源(ほんげん)、根本(こんぽん)の意がある。本(ほん)は大本(おおもと)という意味がある。標(ひょう)は枝葉末節(しようまっせつ)だと言う。古人は「標本(ひょうほん)」をもって分別して、具体的に対立するところの二つの面をまとめて、それを分析して云々」 と書いている。


*『素問(そもん)』や『霊枢(れいすう)』に出て来る「標(ひょう)」と「本(ほん)」というのは王冰(おうひょう)という人が言うように、最初に出た症状あるいは最初に病んだものを「本(ほん)」、後(あと)で出た症状を「標(ひょう)」としている。

*ちなみに経絡治療の「標(ひょう)」と「本(ほん)」の意味とはこのようなものだ。病(やまい)が五蔵(ごぞう)に達しているものに対して行う治療方法を「本治法(ほんじほう)」と呼んでいる。そうではなくて、もっと浅いところにある病(やまい)に対する治療方法を「標治法(ひょうじほう)」ということになろうかと思う。



○05 先寒而後生病者。 06 治其本。 07 先病而後生寒者。 08 治其本。 09 先熱而後生病者。 10 治其本。

05 先(ま)ず寒(かん)して後(のち)に病(やまい)を生(しょう)ずる者は、 06 其(そ)の本(ほん)を治(ち)す。 07 先(ま)ず病(や)みて後(のち)に寒(かん)を生ずる者(もの)は、 08 其(そ)の本(ほん)を治(ち)す。 09 先(ま)ず熱(ねっ)して後(のち)に病(やまい)を生(しょう)ずる者は、 10 其(そ)の本(ほん)を治(ち)す。

(解説)
*どちらにしても最初に生じた病というものを治療対象とする。寒熱と病(や)む、病むとは何らかの症状があるということを言っている。寒熱の症状の場合は、最初に出てきた症状に対しての治療をしなさいと言う。なぜこのような治療方針になったのかは、ちょっとわからない。ただ、こういうふうに病(やまい)というのは一つだけではなくて、症状が変化して行き複数の症状に及ぶのだと言っている。

『傷寒論(しょうかんろん)』という本に載っている三陰三陽(さんいん・さんよう)のように病態が転換していく場合はどうするのかという問題はもちろんある。しかし、ここでは「寒(かん)して後に病(やまい)生(しょう)ずる」ということであるから、最初に寒(かん)の状態の、たとえば震えが出て、その後に何かの症状が出るという時に最初の寒(かん)の症状に着目しなさいということなのだと思う。現在、このような治療をしているということがないので具体的なところに踏み込めないのが残念ではある。しかし問題意識としては、そういうことだろうと思う。

*「寒熱(かんねつ)」というのを郭靄春(かく あいしゅん)氏はその著作でこのように述べている。
「寒: 指寒性疾病。(寒とは寒性の疾病を指す)」 「熱: 指熱性疾病。(熱とは熱性の疾病を指す)」

*寒熱の判断の基準としては脈拍が早い、遅いということもあろう。一呼吸にいくつ脈拍があるかということもその判断の基準になる。


*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜午前10時から12時まで、大阪府鍼灸師会館3階です。勉強会の案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。
次回は2024年 8月11日(日)です。八月度は年に一度の特別講義、テーマは『蔵象(ぞうしょう)について』です。 蔵象(ぞうしょう)とはなんだろう、興味はつきません。

(霊枢のテキストは現在2冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)


(霊枢勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)

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