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研修会&講座のお知らせ

令和元年9月8日第3回学術研修会 二講目報告「実践的お腹の診方と消化器疾患の治療」2019.11.01


 
実践的お腹の診方と消化器疾患の治療
      大樹鍼灸院 院長 漢方鍼灸臨床研究会(KACS)総務部長 松田大樹先生
 
古来より、西洋・東洋どちらにおいてもお腹を診るということは重要視されてきた。難経十六難には腹診の原型があり、腹部の反応によって五臓の病を知ると記されている。江戸時代の湯液家・吉益東洞、安土桃山時代の鍼医・御薗意斎によっても腹診の重要性が伝えられている。古代ギリシャの医聖・ヒポクラテスは、「すべての病気は、腸に始まる」と述べており、現代医学においても「腸は免疫細胞のゆりかご」、「腸は第2の脳」というように腸の重要性は近年ますます注目されている。つまり「快食・快便・快眠」は健康の3要素の元であり、これらを担っている腸を健康にしておくことは生活習慣病が増加している現代人にとって課題であると言える。
東洋医学的な胃腸の診方においては、①胃の気の生成(=後天の原気: 陽気・活動エネルギー)②水穀(飲食物)の受納、腐熟を主る(→消化、吸収)③排泄の働きを担っている。その為、胃腸機能の失調(冷・寒)により①胃の気の低下→元気がない・やる気がない・からだがだるい②消化、吸収力の低下→食欲不振・胃もたれ・胸やけ③排泄調整機能の低下→下痢・便秘を引き起こす。また、胃腸機能の亢進(虚熱・実熱)により、胃腸の熱→ 食欲亢進・胃腸炎・下痢・便秘を呈する。
臨床におけるお腹の診方のポイントにおいて、まず一番大切なことは「健康なお腹を知る」ことであり、健康な乳幼児のおなか又はふかしたてのまんじゅうをイメージするとよい。つまり、柔らかくて皮膚がなめらかで温かいお腹が理想である。逆に、不健康なお腹とは、硬い・突っ張っている・緊張・圧痛・皮膚があらい・ザラザラ・発疹・冷たい・炎症などの反応があるもので、これらの反応を見つける触診力が必要である。経絡治療においては、腹診にて虚実を弁えることで証決定のための重要な診断材料になる。さらに、その他①胸脇苦満→肝実②脇下硬→肝実、瘀血③心下痞(硬)→脾虚④小腹急結・小腹不仁→腎虚⑤瘀血(臍傍瘀血・下腹部瘀血)→肝実 などの反応も重要である。
西洋医学的な診方としては、腹部の筋肉及び内臓も触れやすいポイント(固定されている所)を目安に、経穴の下に何があるのかを把握しておくことも大切である。そして腹部の表層から深部までを触診して病的な反応を捉え、総合的に診てどの臓器に不調があるのかを判断していく。
胃腸症状に使う代表的な経穴においては、脾経、胃経、背部膀胱経の他にも奇穴(華佗夾脊穴、痞根、徹腹)も臨床的に有効である。また、腹部の募穴、任脈、腎経、肝経などの経穴も適宜使用する。経穴の選択の際には、お腹と同様、必ず反応(圧痛・撮診異常・緊張・硬さ・熱感・冷感など)のあるものを選択しないと効果は期待できない。また、治療後にお腹や経穴及び脈などに改善の変化を確認することで、患者さんに問わずとも施術者主導の判定ができるというメリットがある。
治療上、注意を要する症状としては、急性腹症や食中毒、腸の狭窄や閉塞、消化器系以外の原因による腹痛の兆しを見逃さないこと。また冷や汗をかくような痛みや夜間痛、触診にて硬い腫瘤が触れるもの、何回か治療をしても改善がみられないものなどは速やかに内科(胃腸科)の受診をすすめることも重要である。
最後に治療法として、鍼・灸・指圧等々どの手技においても、ツボの反応や患者さんの体質に応じてドーゼを考慮した治療ができることが大切である。刺鍼のポイントとしては『R(リラックス)・I(イメージ)・C(コンセントレーション→鍼先に意識を集中)』を紹介していただき、実技でも披露していただいた。
今回は東洋・西洋にこだわらず、より臨床的な腹部の診方と治療法においてご紹介いただいた。経絡治療においては本治法で手足の経穴を補瀉すると基本的には腹部も整うが、臨床的には慢性疾患や内臓疾患においては改善までに非常に時間を要する場合も多い。必要性に応じて腹部や背部の刺鍼も組み合わせることで、より速く患者さんを治癒に導ける可能性があるならば、非常に意義深いと思われる。また鍼灸師は腹診をする際の心構えとして、今一度「お腹を見せる」という患者さんの立場に立って、患者さんに不快を与えない触診の仕方や安全な治療法を確立していく必要がある。常に患者さんの為にできる最良の治療を追い求めることと、一方で初心に帰って基本的な部分を怠らないことの重要性を再認識させていただいた。
                              研修委員 上田里実