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29年度8月素問勉強会/素問勉強会 八月特別講義「復刻書について」2017.10.01

●日時:平成29年8月13日(日) ●会場:大阪府鍼灸師会館3階
●講師:日本鍼灸研究会代表 篠原孝市先生

・復刻書について

 元々復刻書というのは、そっくりそのままの書物である。貴重な本が手に入ると、それをそっくりそのまま複製する。複製するにはどうしたら良いかというと、その本の糸を解いて、板に裏返してひっつけて、それを彫ってそっくり同じものを作る。かぶせ彫りというもので、そのようにして同じものを作った。

 こういう話をする動機が実はあった。最近はインターネットで図書館の出張所などへ行くと、ウェブ公開されており、きれいなカラーのものが一年毎にどんどん増えていく。私は30歳から45歳ぐらいまでにたくさんの本の復刻に参加したのであるが、自分が担当した本も復刻されて、しかもそれが衝撃的だったのは我々が担当した復刻よりも、今の出ている画像のほうがはるかにきれいなのである。本の場合はモノクロなのであるが、モノクロにしたら見えないものが、カラーのウェブ画像だと鮮明に見えるのである。これは大変なショックを受けた。
 
 復刻本を作ってこれを仕事にするというのは、間違いなく終わったという風に思う。もちろん本で持っていたい人もいる。しかし一般的な意味でいえば復刻書を作って業務にするという時代が「完全に終わったな」という風に、特に最近思っている。それならば一度このあたりでまとめをしようと考えた。

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 鍼灸は江戸時代の後半から、だんだん衰退して、明治も大正も衰退した時期が続いた。衰退した時期は、ちょうど日本が近代化に向かっていく時期と重なる。明治と大正、鍼灸はあまり問題にされなかった。ただ、問題にされなかったが効果があり、それは疑いようがないので無くならなかった。効果というものは体がよく知っている。これは、おそらくこれからも我々にとって、一つの強みではないかと思う。
 
 明治維新(19世紀後半)以来の近代化みたいなものがちょうど頂点に達して、そこからの反省が起こって、これからよりよく経済が成って行く為に国内の改造が必要であり、そして国外の資源を取りにいかないといけないというような事があった。それが昭和の初めの20年間といっても良い。それは社会のあらゆる分野に影響したと思う。
 
 鍼灸の分野でも、それまで非常に衰退して現代医学と伝統医学の中間みたいな存在であったものが、もう一回アジア的なもの、あるいは過去を明治、大正を過ぎて初めて振り返った。その当時の治らない病気に対して、伝統的な医学の中に何か良い方法が無いのかみたいなことがあり、だんだん伝統医学というものが少し注目されるようになった。それが昭和の初めごろである。では、これに対して何とかしようという人達が出てきた。一人は柳谷素霊(やなぎやそれい)という人である。この人が出てきて「古典にかえろう」ということを提唱した。
 
 古典を復興すると言った時に二つの方法がある。一つはその当時残っていた古い鍼灸師に話を聞いて、それを蓄積して何とかしようという方法である。名灸、秘伝灸あるいは秘伝公開みたいな試みである。つまり昔やっていた人のものを受け継げばいいのだという事である。もう一つは江戸時代あるいは江戸時代以前の中国の本を含めて、近代以前の本に依拠して何とかしようという方法である。
 
 柳谷素霊は本の収集をするのとともに、片方では秘伝公開風に各地を回って、お金を出して各地の鍼灸師の技術を売ってもらったりしていた。
 
 柳谷は古典の本を集めて最初に弟子に読ませるのであるが、なにぶんにもだんだん鍼灸をする人口が増えてきた。昭和の初めごろに彼は東京の下町に学校を作った。当時大阪の方では鍼灸はもっと盛んであった。大阪の鍼灸は古典というよりも、現代医学と古典を折衷(せっちゅう)した中西合作的な傾向があった。柳谷素霊もちょっと中西合作的な傾向が無くもないが、古典も勉強しなければならないと考えていた。井上恵理や岡部素道などたくさんいる弟子たちにも、古典を勉強しなければいけないと言っていた。

 ところが困ったことに古典の本を読んでもよくわからないのである。文章がむつかしいというよりも、本を読んでどんな臨床をやったら良いのかがよくわからない。『素問』『霊枢』『難経』を読んでもなかなかそれだけを見たのでは臨床が出来ない。診断をどういう風にすれば良いのか、治療をどういう風にすれば良いのかがよくわからない。しかたが無いのでその当時残っていた古い鍼灸師のやりかたを真似して、まず脈を診て、からだ全体の状態をとらえて、手足や手足以外のつぼを使って治療するという形を作って、その後に一生懸命に古典を読んだ。

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・初期の影印本(1967年~1978年)
 
馬蒔(馬玄台),『素問註證発揮(そもんちゅうしょうはっき)』,古典鍼灸研究会出版部影印,洋装2冊,1973年(昭和48年)2月
素問を読むためのものである。素問を読むための本というのは、江戸時代によく読まれたのは、馬蒔(馬玄台)の『素問註證発揮(そもんちゅうしょうはっき)』と『類経(るいきょう)』、それから寛文三年版の王冰(おうひょう)注の『素問』であった。他に『類経本』を入れて4種類であった。
 
多紀元簡(たきげんかん),『霊枢識(れいすうし)』,古典鍼灸研究会出版部影印,洋装3冊,1973年(昭和48年)
この本は『素問識(そもんし)』と対になっているものである。江戸後期の当時知られた限りでは一番よく知られた『霊枢』の注解書である。幕末に出来たものなので、ほとんど本が無い。これを洋装本3冊にして出した。
 
曲直瀬道三(まなせどうさん),『啓迪集(けいてきしゅう)』,古典鍼灸研究会出版部影印,洋装2冊,1972年(昭和47年)
江戸時代前半に出た後世方(ごせほう)系の医学書の有名なものである。江戸時代に出て以来、一回も世にでていない画期的なものである。曲直瀬道三という人は名前をよく知られているが主著である『啓迪集』というのは全然本がない。きれいな本を手にいれてマイクロフィルムを作って、そして出したというのは画期的なものである。
 
張介賓(ちょうかいひん)『類経』経絡治療研究会影印,洋装4冊,1978年(昭和53年)7月
これは日本で出た和刻本である。『類経』を読む時に非常に便利である。
 
『銅人穴鍼灸図経(どうじんしゅけつしんきゅうずけい)』宮内庁書陵部所蔵本,経絡治療研究会影印,洋装1冊,1974年(昭和49年)
『十四経発揮』に代わる重要な経穴書ではないかと戦前から知られていた。これは非常に精密なオフセット印刷である。今でも燦然と輝く非常に重要なものだと思う。宮内庁にあるので、今はまだ出ないとは思うがそのうち写真版もウェブで出ると思う。買わなくてもそのうちウェブでちゃんと出る。
 
 
 ・影印大型叢書の時代/鍼灸の叢書(1978~1997)
 
『鍼灸医学典籍大系』全23冊,日本古医学資料センター監修,出版科学総合研究所影印,1978年(昭和53年)
当時たくさん売れた。収録された内容というのは中国の10書目、日本の19書目と別巻つきという形のものであった。内容は戦前の経絡治療時代から1970年代までに経絡治療の人が主に読んできた本が選ばれているというところに特徴がある。解説者の顔ぶれを見ると、素問を読む会(島田隆司)、古典鍼灸研究会(井上雅文)、東方会(小野文恵、小野太郎)、明鍼会(岡田明佑)がみられる。
*採録書目は『黄帝内経素問』『黄帝内経霊枢』『黄帝鍼灸甲乙経』『難経本義』『十四経発揮』ほか
 
 
 ・影印大型叢書の時代/鍼灸以外の叢書(1922~2008)
 
1 医経あるいは善本
 
『東洋医学善本叢書』(第1冊~第8冊),全8冊,オリエント出版社影印、1981年(昭和56年)
それまでに出ていたものは、基本的にその当時の臨床家がよく読んでいたものであった。ところが1981年の『東洋医学善本叢書』というのは読むとか読まないとかというものでは無くて、要るとか要らないとかでは無くて、研究するかしないかでも無くて、必要を超えたものといえる。
*収録書目は『仁和寺本 黄帝内経太素』『外台秘要方(げだいひようほう)』ほか
 
『医心方(いしんぽう)』全9冊,オリエント出版社影印(半井家【なからいけ】本),1991年(平成3年)
何と言っても極め付けは『医心方』である。これは東洋医学善本叢書に入れないで特別な扱いとなった。1984年に国宝指定されたものである。半井家が国(文化庁)に売却したものである。
 
 2 その他

『近世漢方医学書集成』全116冊,名著出版影印,1979~1983年,(2016年に電子版刊行)
これは、『鍼灸医学典籍大系』と同じで漢方の方のそれまで読まれてきたものを集大成したものである。
 
『漢方原典攷注集(かんぽうげんてんこうちゅうしゅう)』全8冊,オリエント出版社影印,1986年(昭和61年)
これは、『黄帝内経古注選集』の中の『素問攷注』と『霊枢講義』のちょうど流れをくむもので湯液(とうえき)関係のものである。
 
『和刻漢籍医書集成(わこくかんせきいしょしゅうせい)』,全16輯(しゅう),エンタプライズ影印,1988~1992年
『近世漢方医学書集成』は日本人が近世に書いた医学書をまとめたものである。『和刻漢籍医書集成』は日本の漢方を作った中国の医学書についてまとめたものである。この二つは表裏一体のものであり非常に良い企画だと思う。

*『素問』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜です。
 
(素問勉強会世話人  東大阪地域 松本政己)